土蔵の狸
2019/05/18
知り合いの話。
彼の実家には古くて立派な蔵があるそうだ。
これは、彼がまだ幼い頃のこと。
夜中、祖母が蔵の横を通り過ぎると、
中から人の気配がした。
「誰か中にいる?」
と問うたところ、
「すいませんっ」
と慌てた声が返ってきた。
同時にバタバタッと、
何か暴れるような大きな音がする。
取りあえず中を確認しようと扉を見ると、
閂も鍵も掛かったままだった。
「泥棒だ!」
と動転した祖母は、急いで他の家人を呼び集めた。
数を頼みに中を確認してみたが、
蔵の中には誰もいなかった。
ただ、綺麗に積んであった筈の荷物が、
至る所で崩れていたという。
人が隠れられるような場所もなく、
出て行けるような箇所もない。
家人たちは口々に不思議だと言い合った。
ただ祖父だけは笑ってこう言った。
「大方、裏山の狸の類いが悪さしに来てたんだろう。
昔はウチまで下りてきちゃあ、騒いでたモンだ」
まだ幼かった知り合いは、
「え?あの蔵の中にドラえもんがいたの!?」
と叫んだ。
彼にとって狸から連想できるものは、
ドラえもんしかなかったらしい。
家族皆に大笑いされたそうだ。
「アンタのおかげで、怖くなくなったよ」
祖母がそう言って頭を撫でてくれたのが、
子供心に嬉しかったそうだ。