老舗の料亭
2019/06/11
うちは代々料亭をやってる。
俗に言う老舗の料亭。
江戸から幕末、世界大戦、そして現在、
いろんな人が利用していたそうだ。
『そうだ』と書いたのも、
資料等全部空襲で焼けちゃったから
勘定帖とか残ってないからだ。
それでも、生き証人として
うちのおばあちゃんが色々伝えてくれる。
時々ふと思い出したように話してくれる、
おばあちゃんの話が俺は大好きだ。
なぜなら、時代の裏側を見てきた人だから、
その内容が実に興味深い。
なぜ、あの時あの会社が大きくなれたのか、
なぜ、あの人が時の大臣になったのか、
あの事件の前に何があったのか…
表には決して出てこない真実を、
まざまざと聞かせてくれる。
あまり詳しく書いてしまうと
特定されてしまうので控えるが、
俺がその話の中でも一番絶望した話。
第二次世界大戦での空襲の際、屋敷は全焼した。
敷地にあった蔵も燃えてしまったのだが、
問題はその蔵の中身。
代々様々な方から、借金の方やら褒美やらで頂いた、
国宝級の美術品がぎっしり詰まれていたという事。
火が消えてから覗いてみると、
燃えるものは全て燃え、
焼き物、金属はどろどろに溶けて、
捨てるしかなかったそうだ。
その美術品を見たかったし、
その時のおばあちゃんの気持ちを考えると泣けてきた。
そして、その美術品の現代での価値を考えると
かなり鬱になるよ。