個室に入院していた人が亡くなった
2019/05/09
病院で働いていた時の話。
個室に入院していた人が亡くなった。
東北から出稼ぎで
こちら(関東)に出てきて、
そこで病気になったそうだ。
遺体はご家族が引き取って帰られた。
もちろん荷物も持って帰った。
空いた部屋にはすぐ次の人が入った。
最初は若い男の子。病状は軽いもの。
その病棟では個室は重病者優先だったのだが、
その子は個室じゃなきゃいやだと無理を言いはり、
仕方なく入れた。
だが数日して急に元気がなくなり、
やっぱり大部屋でいいと転室。
そのときはお金もかかるしねと気にしなかった。
しばらくしておばあさんが入った。
軽い認知症のある方だったが、
その人が夜中に
「部屋の鏡やガラスに男の顔が映る」
と頻繁にコールを押すようになった。
認知症からだと思われていたが、
ご家族が気にして他の病室に移動。
以降訴えは消えた。
今度は中年の男性が入った。
こちらは大部屋が空いていないための臨時の入室。
やはり病状は重くなく、割と元気。
だがしばらくしてその人が、
「部屋のトイレの鏡に男の人が映る」
と言い出した。
さりげなく聞き出した人相が、
最初の亡くなった人にそっくり
(ちょっと特徴のある顔だった)。
そしてある日、
「この部屋で亡くなった人はいる?」
と聞いてきた。
面白半分にそういうことをいうタイプの人ではなかったので、
詳しく話を聞いてみると、
夢に、鏡に映っていた男の人が出てきたのだという。
『自分は東北からきた漁師だが、
履いてきた靴がなくて家に帰れない』
と言ったそうだ。
最初に書いた亡くなった東北の人は漁師だった。
当たり前だが、
誰もそのことを男性に話したりする訳がない。
中年男性はその後病室を移り、
元気になって退院された。
そして、その人が部屋を出てから
徹底的に大掃除をした結果、
部屋のロッカーから古びた長靴がでてきた。
最初の男性が入院の時履いてきたものだと、
先輩が覚えていた。
すぐ病状が悪化し、
二度と履かれることのなかったものだった。
長靴はすぐ東北のご家族に郵送された。
その個室は物品置き場に改造された。
長靴と一緒に、
あの人がちゃんと家に帰れましたように。
不思議で仕方ないのは、
三人も患者さんが入って、
そのたびに荷物の出し入れも掃除もしているのに、
どうしてそれまで長靴が見つからなかったかということ。
長靴が出てきたときは、
しばらくの間ナース全員鬱々としてた。
怖いのも怖かったんだけど、
見つかるまでに二ヶ月くらいたってたから、
最初に見つけていれば
もっと早く家に帰れたのかねえ、と思って。
すごく地元に帰りたがってたのに、
病状が悪すぎて転院もできなかった人だったから。
ちなみに物品置き場からは鏡も取られて、
窓には常にカーテンがかかってた。
その後見たという人はいないんで
(夜中に入った時も特に変なことなし)、
ゆうパックと一緒にちゃんと家に帰れたんだと思いたい。