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喋る絵皿

2019/05/09

小さい頃、祖父が友人宅から、
鷹の絵の描かれた大きな絵皿を貰ってきた。
それは今でも和室に飾ってあって、
とくに怪奇現象を起こしたりはしてない。
祖父の友人は骨董商だった。
その皿も店の品物でかなりの逸品らしいが、
売れてもじきに返品される謎の皿だったらしい。
当の骨董商が亡くなったとかで、
親友である祖父が形見分けとして引き取ったそうだ。
皿がうちに来た当時、
幼かった私はその絵皿がえらく気に入っていた。
触ると祖父に怒られるので、祖父の外出中をねらって、
皿を床にふせて爪ではじいていた。
そうすると、皿から若い男の人の声がした。
「痛い、叩くな」
「やめなさい」
「物なんだから大切に扱え」
こういう内容がほとんどだったけど、
反応があるのが面白くて弾きまくった。
皿はたまに、
「ここだけの話だからな」
といって、他人の秘密を教えてくれた。
若い頃の祖父が、美女に交際を申し込むために、
馬鹿みたいなパフォーマンスをしたこと。
その馬鹿男を祖母が殴って叱ったのが、
二人のなれそめであること。
隣の奥さんが、不倫亭主を見限るまでの経緯。
ほかにも、普通なら知り得ない他家の事情をいろいろ聞かされた。
惚れたはれたが多かったが、
たまに私が沈んでると励まされたりもした。
皿から聞いた話を祖父母に言うと、
やけに焦った反応が返ってきたから、
あながち嘘ではなかったんだと思う。
小学校にあがって友達と遊ぶようになり、
私は皿のことを忘れていった。
ついこの前までは、皿が喋るなんて子供の頃の妄想かと思っていたが、
先日和室を掃除しにいったら、
うちの娘がかつての私と同じようにして皿で遊んでいた。
「パパがね、(娘)が生まれたときから、
×田●子さんていう女の子とフテーを働いてるんだって!
『お婿のくせに生意気だ』って、お皿が言ってたよ。
ママがいるのに許せないんだって。
ねえ、フテーって何?」
不貞ってのはつまり浮気のことだ、
なんてまさか教えたりはしなかった。
後日、夫が『職場の飲み会』に出かけたあと、
忘れていった携帯(仕事用)に『専務』からの着信が。
「●子だよぉ☆今いつものホテルで待ってるからはやく来てね」
あの皿は、今も変わらずゴシップが好きらしい。
とりあえず昔と同じように床にふせて、
娘に昼ドラまがいの話を吹き込むなと釘をさしておいたが、
もう昔のように皿の声は聞こえなかった。
娘が私の若い頃のことについてやけに詳しいのは、
やはり皿の仕業なんだろうか。
部屋でヒゲダンスするのが趣味だったなんて、
恥ずかしくて誰にも言ってないのに、何で知ってるんだ。

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