ツキとギン
2019/04/25
10歳から12歳までの頃の話。
メンヘラって思われるかもしれないけど、
私は常に多重人格の様な体験をしてた。
とはいっても、TVで観る様な別人格が現れるとかでは無く、
頭の中で声が聞こえる事がしばしばあった。
声の主は男と女。声の感じは、
若めの成人男女、といった感じだった。
確かにはっきりと(幻聴って言われるかもしれないけど)聞こえてた。
当時私は中学受験を控えてて、
都内でもよくあるNのバッグの塾に通ってた。
初めて声を聞いたのは、その塾のテスト中だったと思う。
突然女性の声で、『何やってるの?』って声が聞こえた。
私は驚き周囲を確認するも、近くに大人の姿は無い。
すると今度は男の声で、
『お前さー、ツキが聞いてるだろ?答えてやれよ』
って。
月?何のことか分からなかった。
頭がおかしくなったのかと思った。
それでもしつこく『おーい』とか聞いてくるのだが、
もちろん厳しい塾だし、私語なんかしてたら怒られる!
って思っていたので、ずっと無視をしていた。
その帰り道、バスで帰る為に駅まで歩きながら、
あの2人の事を考えていた。
周りの雑踏に掻き消されるぐらいの小さな声で、
「ツキ・・・」って言ってみた。
すると、
『あ、聞こえてたんだね。名前覚えてくれたんだ。えらいえらい』
とツキ。
この時は冷や汗が出るほど驚いた。
男の方は、無視したことが気に入らなかったのか怒っていた。
本当に頭がおかしくなったんだと思った。
当時看護婦をしていた母に相談してみたところ、
「また聞こえたら病院に行ってみる?」
って言われた。
”頭がおかしくなった人の病院は怖い”
っていうのが当時の私の印象で、
親にはもう相談出来ないって子供心にそう決めた。
日が経つにつれその現象(幻聴?)にもなれた私は、
気付かれないようにコソコソと、その2人と会話をする様になった。
何回か話すにつれ、男は『ギンだよ』って教えてくれた。
ギンの性格は短気で、口が悪いが頼れる存在。
当時の私には、心強い兄の様に感じていた。
逆にツキは優しく、何でも知っていて穏やかな話し方をする女性だった。
私はこの2人が本当に好きだった。
例えばギンは、自分の声が周りに聞こえていないのをいい事に、
友人の話を『こいつおもしろいな~』って笑っていたり、
私が親に怒られている間は、『母ちゃん話長いね~』とか煽り、
こっちが笑いをこらえるのに必死だった時もあった。
また、テストの時間、小声で頭のいいツキ♀に答えを聞こうとし、
ギン♂に怒鳴られるなんて事もあった。
ツキはテストの時間、
『ココは前に○○先生が~』
とか、ちょっとしたヒントをくれた。
なかでもツキの話は、こどもの私でも興味津々だった。
大半がうろ覚えなのだが、確実に覚えているものをひとつ。
ツキ『○○(←私)、地球は本当に丸いと思う?』
私 「うん。丸い」
ツキ『本当にそう思う?』
私 「何で?そう教わったし、テレビでも地球は丸いよ?」
ツキ『丸いって言われてるから、そう思うのかもしれないでしょ?』
私 「丸くないって思ってたのは昔の人でしょ?ツキは昔の人なの?」
ツキ『教えない。でも○○(←私)には教えてあげる。地球は丸でも平らでもないわ』
私 「??・・・全然分かんないよ」
ツキ『ごめんね。でもこれだけは憶えておいて。地球の壁の向こうに私達はいるから』
(ここが非常に印象的だった)
私 「壁?」
ツキ『いつか会いに来てね』
私 「うん。絶対行く。約束する」
ギン『おい、ツキ!もーいいだろ。そろそろ母ちゃんが飯呼びに来るぞ』
私 「分かった!ふたりとも『シーッ』」
んで即母親登場みたいな。
でも私は、妹にその話をしてしまい、
妹から母親に伝わり、病院へ連れて行かれる事になる。
私は頭がおかしくなってもいいから、
2人とは離れたくなかったので、嫌がって泣きじゃくった。
病院では軽いテスト?
(クイズから絵を見せられたり、テレビを見て感想を述べたり)
を行ったのだが、驚くべき事に、
その時だけは問題の答え方は、全てギンが教えてくれた。
そのぐらいありえなかった。
結果問題はなく、2人はそれからも私と共にいた。
だが2年ぐらい経ったある日、
毎日会話をしていたのにもかかわらず、
だんだんとギンの声が聞こえなくなってきた。
遠くから声が聞こえるように、小さくしか聞こえないのだ。
私は不安になってツキに聞いた。
ツキは言った。
『あなたが大人になるにつれ私達の声は聞こえなくなるの』
と。
私は大人になんてなりたくないから、
離れないでって嘆願したが、
ツキは『ごめんなさい』としか言わなかった。
ギンの声が消え、そしてツキの声が消えた時、
私は初めて学校を休み、1日中布団の中で泣いていた。
あれから10年以上経つが、あの2人の事をふと思い出す。
今でも誰か別のこどもと、
楽しくお喋りをしているのだろうか。
地球の壁の向こうにいる友達へ、
「ありがとう」とひとこと言いたかったな。