お悔やみの広告
2019/04/24
私の仕事は、いわゆる広告業。
中でも、お悔やみの広告
(○○さんXX日死去、通夜は△時から●●で~みたいなやつ。
新聞とか、ネットに載ってるんだけど、地方独自なのかな?)
を間違いがないかチェックして先方に送るという、
校閲業務を担当している。
当然、死後数時間の悲しみ真っただ中のご遺族と
打ち合わせしなきゃならない。
たいてい電話なんだけど、
たまに話の最中でいきなり狂ったように笑い出す人もいる。
泣きながら遺産相続の話をする人もいるし、怒り出す人も……。
やっぱり普通の精神状態じゃない。
ある日、男性から『新聞に載せたい』とお電話があった。
ウチには大抵葬儀社経緯で依頼が来るんだけど、
たまに遺族から直接電話が来ることもある。
それは良い。
けれど、年齢の感じは中~高年。
なのに、お ネ ェ こ と ば なのは、ものすごく気になった。
いつものように個人情報保護法などの簡単な説明をして、
名前から確認しようとしたら、
『昨日は葬儀社が連絡したんだけど、葬儀社が違う名前で送ってしまった。
直接訂正したい』
とのこと。
その方いわく、昨日送ったのは【田中ミツ】さんだけど、
正しくは【田中晃】さん(ともに仮名)が亡くなったのだそうだ。
情報を提供した遺族と、
亡くなった方の名前が逆になっていたと、
大層お怒りだった。
確かに、確認したらそう書いてある。
とりあえず、宥めて正しい情報の確認開始。
その間も、オネェ言葉が気になって仕方がない。
で、色々終わって、最後に、
私「では、貴方様のお名前とご連絡先、
【田中晃】さまから見た続柄を教えて頂けますか?」
男『それは、内緒なの』
私「え?……それでしたら、広告は出せませんが……」
男『でも、晃は死んだのよ。ミツは生きてるのよ』
私「いえ、あの……」
ここら辺から、段々男性の様子がおかしくなる。
男『死んだの。晃が死んだの』
私「それでも、田中様のご家族ということがはっきりしていませんと、掲載は…」
男『晃は死んだのよ!ひひ、ひひひひひ』
本当にこんな笑い方だった。
今までにも笑い出す人はいたけど、
ここまでわけのわからない人も初めてだった。
もうゾッとしてしまって、一刻も早く切りたくなってしまった。
そこに、ベテランの先輩(男性社員)が通りがかった。
私はとりあえず
「上司に相談しますので、少々お待ちください」
と告げて、
先輩に【田中ミツ】さんの件を知っているか聞いてみた。
すると、
「あぁ、それ俺が受けた電話だわ」
とのこと。
私が田中晃さんの件を話すと、先輩は顔をしかめて、
「え?だって、俺に掲載の依頼をしてきた男性は、
【田中晃】さんだよ?オネェ口調の男性」
結局、電話は切れていました。
【田中晃】さんは、自分を死んだと広告に出して、
一体何がしたかったのか。
結局『田中ミツ』さんという女性は亡くなっていたんです。
最初に葬儀社が出した『田中ミツ』さんの情報はあっていました。
葬儀社によると、『田中晃』さんはミツさんの息子。
なぜ、母親の代わりに自分が死んだことにしたのか……。