キューピッド
2019/01/20
私にはA子という彼女がいました。
しかし社会人になり仕事が忙しくなると、
デートの時間もなかなかとれず、お互いイライラが募り、
すれ違いばかりで、喧嘩が絶えなくなりました。
ある日、彼女と大喧嘩をし、私は絶縁の言葉を投げかけ別れました。
その晩、変な夢を見たのです。
見知らぬ町を歩いていると、
遠くから麦藁帽子をかぶった少年が自転車で近づいてきました。
そして
「僕はA子の兄だ。妹と別れるなら責任を取れ」
と言うのです。
彼女には生後3ヶ月で亡くなった兄がいたのは知っていました。
私が謝ると、お兄さんが着いて来るように言うので、従いました。
しばらく歩くと鬱蒼とした森に出ました。
突然、空から一羽の鳥が襲い掛かって来て、
私の顔やら手やらを噛み千切ってきたのです。
私は血だらけになりながら、無我夢中で逃げましたが
どこまでも追ってきます。
そしてよく見ると、それは鳥ではなかったのです。
怒りに顔を歪め、恐ろしい形相をしたキューピッドなのです。
歯をむき出し、羽根をばたつかせて、
「キーキー!」
と奇声をあげて追いかけてきます。
いつの間にかお兄さんが自転車で私に併走していて、
「殺さないと食べられるぞ!」
と叫びました。
キューピッドが飛びついてきて肩に噛み付いてきました。
血が噴出し、激痛が走り、本当に殺されると思い
必死でキューピッドの首を絞めました。
キューピッドは血だらけの顔を苦しそうに歪め・・・・。
その時、何故か悲しくなり、手の力を緩めました。
キューピッドは急に大人しくなりました。
同時に私の意識は朦朧とし、気を失いました。
遠のく意識の中、お兄さんが
「それはA子と君の子供だ。」
と言ったのを聞きました。
目が覚めると、すぐにA子に電話をしました。
すると、A子は泣きながら妊娠していることを告白しました。
喧嘩ばかりで言い出せなかったのだと。
そしてなんと、黙って中絶することを考えていたのだと。
私達は話し合い、よりを戻しました。
それからは喧嘩もしなくなり私達は結婚し、A子も無事出産しました。
生まれた子供は夢の中のキューピッドとは全く似ていません。
もちろん。ただ、もしA子と別れ、中絶させていたら、
この子は、あのキューピッドのような恐ろしい表情で、
この世から消えていっていたのかも知れません。