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謎の老人

2019/05/19

私の家族が体験した話です。
10年くらい前の話なのですが、
なんとなく口に出すのがはばかられることだと思っていました。
私の実家は店舗兼家屋で、前から見たらお店、
裏に回ると家の入口、といった感じになっていました。
自分の実家ですが、裏の入口は暗く狭いし、
知らない人はそこに入口があるということも気づき辛いらしく、
宅配便の担当者が変わるたびに、電話で
「お宅はどこでしょうか」
と聞かれるようなところでした。
ある日、両親は店舗で仕事、妹が居間にいたとき、
裏口のほうに来客があったそうです。
インターホンはなかったので、
妹が「はい」と返事をし鍵を開けると、
ドアをガバっとあけて、
背が高くとても痩せたお爺さんが入ってきたそうです。
そして、
「社長はいるか」
と言ってきたそうです。
社長?と思ったそうですが、
自営業なので父のことかと思い、
前の店舗で仕事をしている、
ということを伝えているのにもかかわらず、
「社長はいるか」
の一点張り。
そして、妹がひるみながら対応していると、
ずかずかと居間にあがりこんだそうです。
もう駄目だと思い、
妹は家の中から店舗に行き父を呼びました。
父も見たことがない人だったようで、
社長というか、この家の主は自分だ、
ということを説明したそうですが、
「社長に会いたい、●●という人だ、昔お世話になったのだ」
と言うばかりで、どうも話も通じない。
そのうち母も店舗側から家に入ってきて、
妹、父、母で、どうもこの人はおかしいと思いだしたそうです。
もしかしたら、ちょっとボケちゃったご老人が、
間違って訪ねてきたのかな?と思い、
「とにかくうちは違うから帰ってくれ」
と言いました。
でもその老人はなかなか帰らず、
「社長に会いたい」
と繰り返したそうです。
20分ほどたっても帰ろうとせず、
仕方なしに父が、どんどんその老人の体を押す形で玄関まで連れて行き、
なんとか靴を履かせ玄関の外に出しました。
外にはタクシーが待っていて、
どうやらその老人が乗ってきた車のようでした。
父と老人がタクシーに近づくと、
タクシーの後部座席のドアが開き、
老人もすんなりタクシーに乗り込んだそうです。
そしてドア閉まり、タクシーは発進。
やれやれと思ったそうです。
私はこの話を、母、父、妹の3人から、
それぞれの立場で見たことを聞きました。
妹も母も、老人の静かながらも
強引に家に入り込んできて話が通じないところが、
不気味でとても怖かったそうです。
普段父はとても怖がりで、怖い話の類は嫌いで、
そんな話をすると本気で怒るくらいなのですが、
父の話には、母と妹の話より続きがありました。
父だけが外まで老人を連れていく形になり、
タクシーを見送ったのですが、
ふと運転席を見ると、タクシーの運転手は見えなかった。
というか、いなかったそうです。
そして、その老人が乗って行ったタクシーは、
父も今まで見たことのない、
古ぼけた形の車だったということです。

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