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封印された記憶

2018/12/18

記憶を無くした人間はふいに記憶を取り戻した時、記憶をなくす直前の行動をとる。
この文を読んだ時、俺はあることを思い出した。

先輩は8才の夏、一ヵ月ほど行方不明になった。
誘拐されたと思った先輩の親は、警察に捜索願いを出した。
一ヵ月後、先輩は警察に保護された。
が、先輩には一ヵ月の間の記憶が抜けていた。

住んでいた場所からかなり離れていたことと、一ヵ月の間何を食べていたのかわからないが、健康状態は良好だったことから、やはり何者かに誘拐されていたのだろうという結論にいたった。

先輩には彼女がいた。知り合ったのは大学に入ってかららしいが、入学して間もなくつきあい始めたらしい。冗談で先輩の彼女に、
「先輩のどこを好きになったんすか?」
と聞いたら、
「わかんない」
笑いながら答えてくれた。

サークルの夏合宿は、長野県に決まった。
長野に決まったのは先輩の意向だった。

夜、みんなで怪談話に盛り上がっていた時、事件は起きた。
先輩の彼女が何かに憑かれたようにけたたましく笑いだした。
笑いながら
「あの夏…」
と繰り返している。
先輩は彼女をなだめていたのだが、急に棒立ちになり、顔つきが変わった。両手を前につきだしている。細かく手が震えた。
「また私を殺すの?」
先輩の彼女がつぶやく。
「お前は死なない。死ななかった。死んでいたのに。」
言いながら先輩は彼女の首を締め始めた。
彼女が狂ったように笑う。
先輩の目は血走っている。
俺たちは目の前で行なわれていることに、しばらく反応できなかった。
彼女の顔が青ざめていく。

「何やってんですか!先輩」
誰かが叫んだ。
それを機に数人が先輩を止めに入った。
それ以来、先輩は学校に姿を現さなくなった。
先輩の彼女は学校を辞めた。

あの夏合宿の事件のことは全く覚えてないらしかった。
「死ななかった。死んでいたのに。」
先輩のこの言葉が、ずっと引っ掛かっている。
今となっては、真相を知ることはできないが、
あの時先輩は全てを思い出したんじゃないかと思っている。

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