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立ち会ってくれないかしら

2018/12/18

私の昔話。

若い時金が無くて凄いぼろアパートに住んでました。入り口の脇に小さな台所が付いていて、トイレは共同でした。トイレに行くのに他の部屋の前を三つ過ぎて行かなければならず、他の部屋の台所の小窓が開いていると、他の住人と顔を会わせる事もあるような建物でした。アパートと言うより下宿ですね。しかし都会の常か、あまり隣人とは話はしませんでしたね、挨拶程度。

七月の半ばぐらいだったでしょうか、夜中に目を覚ますと隣の部屋との境界の壁がおかしいことに気が付きました。

黄ばんだ漆喰の壁がぼ~っと透けていくんです。その向こうにはなぜか芝生が生えた広場なんです。その真ん中に顔はよくわからないのですが中年の小柄な男性と思しき人が正座しています。

暫くみていると元の漆喰の壁に戻ってしまいました。寝ぼけていると自分を納得させましたが、その日から毎日同じような幻覚を見始めました。

いつも数十秒のことなので気にしてはいませんでしたが、七月も終わる頃の日曜日に事件が起きました。

隣の家に住む大家さんが突然私の部屋をノックするんです。家賃は払ったばかりだし、なんだろうとドアを開けると大家さんが
「無法さん、隣の○○さんの様子がおかしいの、中を見たいんだけど立ち会ってくれないかしら?」
「いいですよ」
っと表に出ると隣の部屋のドアを開けました。

隣に住む男性がうつぶせに倒れていました。ドアを開けてすぐの場所に、頭を部屋へ向けて倒れていました。
「○○さん、どうしました?隣の無法です!」
っと声を掛けながら顔を覗き込むと、その頬には青紫色のまだら模様が。

「ああ、だめだ、死んでる…」
私はつぶやくと大家さんに警察を呼ぶように言いました。

暫く待っていると警察がやってきて室内を調べたり、私と大家さんに発見時の状況を聞いたりして、一時間くらいいました。

「外傷もないし病死でしょう、何かあったらお知らせします」
といって遺体を持って帰っていきました。

その際、遺体をストレッチャーに移そうと持ち上げた時、わき腹の辺りが破れて真っ黒な液体が床に落ちました。凄い臭いが一面に広がって、それまで平常心を保っていた私も自分の部屋に逃げ込みました。

あの臭いは二度と嗅ぎたくありません。灯油を少量撒くと臭いは消えましたが。その日から妙な幻覚は見なくなりました。が…隣の部屋から音がするんです。

夕方になると、食器を洗う音や水道の音、足音など普通の生活音が聞こえるんです。その部屋の前を通らないと、トイレにいけない構造でしたので仕方なくその部屋の前を通るんですが、人の気配が確かにありました。

私はあまり気にしないほうだったのですがいい気持ちではありませんでした。その内一人引っ越し二人引越し、九月を過ぎる頃には住人は私だけになっていました。

その内、大家さんも気味悪がって
「もうここも古いし、立替時だから」
と立ち退かされました。

今その場所は今風のワンルームマンションがたっています。

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