ネット上に存在する不思議で怖い話を
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勘違い

2018/11/30

引っ越した先のぼろアパートには、
ありがたくない先住者がいた。
戦災をのがれて生き残ったという、
古き昭和の面影を残すこの建物にじつにぴったりな、
うらさびしいその存在。
荷物をはこびこむとき、
そいつは部屋のすみに座ってうつむいていた。
かべのほうを向いて。
まるで無言の抵抗をこころみるように。
こころのなかで、
「ごめんよ。君はもうこの世界の住人じゃないんだよ」
と、手をあわせながら作業をすすめた。
帰るといつもそいつは部屋にいた。
かべのほうを向いて、かなしそうにしていた。
寝るときもそいつは部屋のすみっこにいて、
べつになにか悪さをするわけでもなかった。
もしかしたら、部屋にいくらか残ったままだった、
そいつのものと思われる遺留品が心残りで、
成仏できないのかもしれない。
残念だが、捨てさせてもらったよ。
ちゃんとお寺で供養までしたんだよ。
しかし、そいつはくぐもった声で、
「ここはおれの部屋だ」
とくりかえし言うだけ。
「君はここにいちゃいけないんだ。君の帰るべき家は、」
と説いて、窓の外、空の向こうを指差すと、
そいつは肩をゆらして泣きじゃくった。
そのとき、ハッとこころあたりがして、
引き戸をあけて廊下へとびだし、
すすけた部屋番号の木札を見た。
部屋をまちがえてた。
ゴメン。ほんとにゴメン。
なんてあやまったらいいのか。
すてちゃったよ、君のもの。
どうしよう。

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