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鈴の音

2018/11/16

これは又聞きの話なんで
真偽の程は定かではないとしておこう。
友人がバイクで事故ったとの知らせを聞いた斎藤さんが
担ぎ込まれたという病院に仲間2人を連れて出かけた。
幸いにして彼の怪我の度合いはそれほどでもなく、
バイクが全損になったのは残念だが、
命には代えられないと安堵した。
その夜のうちに帰宅できるとの事で
車で自宅まで届けるために
斎藤さんは車で来て欲しいと頼まれていた。
別段変った事故でもなく、
単なる自損事故、ここまでは。
その後、検査で彼の脳に損傷が有るかもしれないとの事で
精密検査を至急行うに至って、斎藤さんは病院で待つ事になった。
運ばれたのは午後6時、斎藤さんが着たのは午後7時
夕食を食べに出かけて病院に戻り、
再検査になったのが午後9時で、
時刻はそろそろ午前0時になろうとしていた。
「あいつ大丈夫なのかなぁ。」
不安がる斎藤さんを仲間達は
「あいつに限って、そう簡単には死んだりしないよ」
となだめた。
「俺もそうは思うんだけど・・・」
塞ぎ込む斎藤さんが視線を床に落とした時
どこからか鈴の音がする。
普通のチリチリという音ではなく、
お遍路さんが持ってる少し大きい
チリィ~ンチリィ~ンと鳴るやつ。
「どっからだろう?」
顔を上げて右手奥の廊下を見ると、
すでに消灯した病棟へ続く廊下は
溶け込むような闇に続いている。
「あっちか」
斎藤さんが向き直ると、
仲間達もその方向を見ている。
「チリィ~ン・・・チリィ~ン・・・チリィ~ンチリィ~ン・・・」
少しずつ、しかも確実に近づいてくる音、
皆は生唾を飲むように固まる。
姿無き鈴の音はとうとう皆の前まで迫り、
座っていた長椅子の周りをゆっくりと回り始めた。
不思議と恐怖感は無く、それよりも不安が襲う。
数分、いや数十分ほどだったか、
長椅子の周りを回っていた鈴の音は
ゆっくりと溶け込むような闇の方向へと吸い込まれていく。
「何なんだあれは?」
斎藤さんは思わず声を出した。
それで金縛りが解けるように
全員がほぉっと大きく息をついた。
それと同時に、薄い明かりの差していた部屋、
手術中という赤いランプが
ポッと消えて中から医師が出てきた。
「危なかった、あのまま帰していたら危なかったかも」
外傷性くも膜下出血、
友人は生死の境をさ迷っていたのだ。
家族に連絡を取り、
皆で一旦斎藤さんの家に帰ることになった。
少し落ち着いてビールを飲み始めた時に、
一人がつぶやいた
「あのさ、さっきの鈴の音、ばあちゃんに聞いた事があるんだけど」
「死人を迎えにくる案内人が持ってる鈴ってあんな音だって。」
脳に広がる血の塊を取り除く手術、
ちょうどその頃、鈴は迎えに来ていた。
凍るような静寂の中に聞こえる、
冴えた冷たい音を斎藤さんは今も覚えている。

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