本文の文字サイズ

廃屋からの注文

2018/11/01

大学生時代の夏休みに
蕎麦屋の出前のバイトやってたときの話。
郊外の住宅街で、
ちょっと行けば丘陵地帯の雑木林が広がる田舎だった。
ある日、カツ丼5人前っていう注文が来た。
道端に原付を止めて、
雑木林の奥へ5分くらい歩いて行った所だった。
工事現場か林業関係の注文だと思ってたんだけど、
到着してみたら10年以上も
誰も足を踏み入れてなさそうなボロボロの廃屋。
明治大正から建ってたんじゃないかってくらい
古い平屋の納屋みたいな建物で、
窓ガラスは全部無くなっていて、
中を覗いてみると家具や電化品や粗大ゴミが
あちこちに散乱していて埃が堆く積っていた。
誰もいないし、何か作業をしていた跡もないし、
場所を間違えたと一瞬思ったんだけど、
地図ではそこ以外にありえないし、家は他に無い。
かろうじて残っている表札の「吉田」も合っていた。
一応、
「○○屋でーす」
と声をかけてみたけど、
当たり前のように返事は無い。
やかましいセミの声しか聞こえない。
家の周りを探したけど、どこにも人はいない。
電話では、誰もいないかも知れないから
家の中に勝手に入って置いていってくれ、
っていう話だったらしい。
テーブルの上に代金が置いてあるから
勝手に持ってってくれと。
で、恐る恐る家の中に入ってみた。
裏口から薄暗い台所に入ってみると、
テーブルの上に封筒があって、
中にきちんと代金が入っていた。
足の踏み場も無いくらい
いろんなものが散乱していて、電気もつかないし、
ハエや変な虫がいっぱい飛んでて、埃で空気も悪い。
食事や休憩に使うには
あまりにも不衛生で環境が悪すぎる。
壁にカレンダーが掛かっていて、
1980年とあった。
20年前のものだった。
ほんとにここで誰かが飯を食うのか?
質の悪い悪戯か?
といぶかったけど、
代金があるんじゃ品物を置いていかないわけにはいかない。
カツ丼を五つテーブルの上に置いて、
俺は逃げるようにその気持ちの悪い廃屋から出て行った。
てんや物に使うにはちょっと良い焼き物だったんで、
放っておくと店長に怒られる(そっちのほうがよっぽど怖い)から、
あんまり行きたくなかったけど、
次の日、その廃屋へお椀の回収に出かけた。
予想通りというか、やはりそこには誰もいなかった。
カレンダーの昨日の日付に赤いペンで○がつけてあって、
「カツ丼5人前。ごちそうさん」
と書かれていた。
昨日の客の誰かが書いたんだろうけど、
20年前のカレンダーなんで、妙に不気味だった。
テーブルの上に食器が置いてあった。
出前の電話はやはり悪戯じゃなかったようで、
カツ丼は完食されていた。
ただ、ひとつ足りなかった。
お椀は四つしかなかった。
そこらへんを見て回ったけど、どこにも無かった。
神経質の店長は怒るかもだけど、仕方が無い。
とにかく一刻も早くそこから離れたかった。
四つだけ回収して帰ったが、やはり怒られた。
次の日俺は休みだったんで、
高校の同級生で一緒にバイトしてる伊東が代わりに
残りの一個を回収に行かされた。
・・・どうやらお椀は見つかったらしい。
奥の居間(らしき部屋)にあったそうだ。
小心者の俺はテーブルの周りをちょっと見回しただけで、
奥の部屋へは行かなかったのだ。
良い笑いものだ。
その日の夜遅くに伊東から電話が来た。
「・・・にしてもさぁ、気が付いた?
台所に20年前のカレンダーが掛かっててさぁ、
12月4日のとこに○印付けられてたの。
お前の誕生日じゃん(禿藁」

にほんブログ村 2ちゃんねるブログ 2ちゃんねる(オカルト・怖い話)へ

よろしければ応援お願いシマス

人気作品

人気カテゴリ

RSS