先輩の彼女
2018/10/30
うめき声トイレ会社恐怖金縛り警察行方不明自殺布団風呂アパート
大学新卒で東京のある出版社に勤めることになった
会社の寮は千葉県M市にあり
6畳の部屋が二つのトイレ、キッチン、バス共用の相部屋
オレは1年先輩のヒトと一緒になる
その先輩は基本的には良いヒトで
オレにも親切だったが女癖が悪いのが玉に瑕
とっかえひっかえの複数交際をしていた
俺が寮に入る前は(彼一人だったので)
よく女を連れ込んで同僚の顰蹙を買っていたそうだ
俺が入ってからは収まったものの、
実際は内緒で連れ込んでる事もたまにあった
(寮といってもアパートを会社が買い取って改築した物、
管理人等はいない)
「アイツいつか女でえらい目に会うぞ・・・」
週末の寮での飲み会でよく酒のつまみにされていた
そんな先輩にいよいよシャレにならない出来事が起こる
週末の或る日、
先に部屋に帰ったオレは風呂に入っていた
ドアが開く音が聞こえて誰かが入ってくる
湯船でくつろぎながら
オレはその先輩が帰ってきたのかと
曇りガラスに目をやった
しかし先輩ではなかった
髪の長い女のヒトが
スッと横切って行くのがハッキリと見えた
その時妙な胸騒ぎがしたのだが
「またか、しょうがないヒトだな・・・」
またいつものように女のヒトを連れ込んだのだ
そう思った
風呂から入ったオレは
隣の部屋にハッキリとヒトの気配を感じながらも
知らぬ振りを決め込んで布団に入った
オレはその夜
はじめての金縛りを経験することになる
疲れてたオレはすぐに眠ってしまった
明け方近くだったと思う
女のヒトのうめき声とも泣き声とも
区別のつかない異様な声で目を覚ます
(金縛りの状態だから
意識が目覚めただけで体は動かない)
その異様な声は初め聞きとれない
意味不明の音だったが
次第に「○○!」「○○!」
(先輩の名前)と聞き取れるようになる
オレは目を開けれなかった
恐怖よりも金縛りにパニくって
体を動かそうと必死だった
そのあとブラックアウトしたまま
朝になって(ホントに)目を覚ます
異様なほど寝汗をかいていた・・・
体が重たく起き上がるのが辛かったが、
すぐに隣の部屋をノックする為に起き上がる
「○○さん!います!?」
部屋から反応は無い
玄関を見ると靴はオレのだけで先輩のは無かった
もちろん女性の靴も・・・
『なんだ、先輩帰ってなかったのか?
それとも女のヒトともめて早く出て行ったのか・・』
オレは昨夜の金縛りは
単なる疲れがもたらした物だろうと納得しようとした
しかし風呂で曇りガラス越しに見た髪の長い女のヒトが
妙に頭から離れなかった
気になったので
昼過ぎに二階の先輩と同じ部署のヒトに話を聞きに行った
「え?○○なら気分が悪くなったって昨日昼頃帰ったぞ・・・」
オレは昨日女のヒトが入ってきたことや
金縛りになったことを話した
そのヒトは急に顔をしかめ
「お前聞いていなかったのか・・・
あいつの女の一人が自殺したらしいんだ・・・
オレも詳しくは知らないんだけどな、
それでアイツ最近ふさぎこんでいたろ?」
月曜日になっても先輩は寮に帰らなかった
とうとう無断欠勤が続いたので
会社側もその先輩の実家などに連絡を入れることになる
実家の方にも連絡が行っていなかった
行方不明である
親は警察に捜査願いを出したとのことだ
それから一ヶ月ぐらい経ってから
先輩の実家から辞職願いが出された
先輩は発見されたものの
精神を病んでいて
とても復職できる状態ではないとのこと
先輩の両親がオレの部屋に荷物を取りに来ることになった
一ヶ月間オレは怖くて
隣の部屋はなるべく近づかないようにしていた
(寮を管理してる総務課のヒトが
部屋に来てもオレは覗かないようにしてた)
先輩の両親は衰弱しきっった様子で
オレに挨拶に来た
(オレは総務のヒトからかぎを預かっていた)
オレは先輩にお世話になった身でもあり、
荷物を運ぶのを手伝うことにし
部屋の鍵を開けた
(部屋は先輩がいなくなったそのままにしておいてある
事件性があった時の為だ)
綺麗好きだった先輩の部屋はよく整理してあった
部屋の中央に炬燵があって
二つのコーヒーカップが置いてあった
一つは飲み干されていて、
もう一つはコーヒーが入ったままである
オレはコーヒーの入ったままのカップのそばに
長い髪が落ちているのを見つけた
あの日の事が鮮明に蘇ってきた
『オレが見た女のヒトのモノだ!』
オレは両親に詳しいことを聞きたかったが
そんな雰囲気ではなく
淡々と荷物運びを手伝った
オレはその後、寮を出て会社もしばらくして辞めた
先輩がその後どうなったか気になったが
今となっては知るすべも無い