3年おきに死ぬ地域
2024/09/12
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俺は幽霊なんて見たことないし、そんなんだから幽霊は出てこないけれど実際の話なんだ。
長文だけど、ちょっと付き合ってくれると嬉しい。
うちのお袋はまだ65でさ、元気に生きてるけれどさ、口を酸っぱくして言う遺言があるのよ。
いかなる理由においてもA(地名ね)の我が家には住んではならない。
これは遺言であるって。
お袋、遺言の定義を絶対わかってねえなあとか思うけれどまあ良しとしよう。
Aの我が家っていわゆる新興住宅地。建売の。どこにでもある。
昭和50年代に親父が家を買って、俺は生まれたときからそこに住んでいたんだな。
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●が我が家ね。
こんな感じ。イメージつくかな。
結論から書こう。ここ、40前後の男性が3年おきに死ぬの。
1:はじめは俺が幼稚園の年長のとき。となりの鈴木さんちのお父さん。38か9だったかな
鈴木さんちには俺の2個上のお姉ちゃんがいてね。後から心臓発作らしいとはきいたけど。
家の場所を図にするとこんな感じ。
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●が我が家で、■が鈴木さん
これが原因かはわからないけれど、この一家はホントに荒んでいくんだよね。お母さん、すげえヒステリックでさ、家が隣だから大声出せば聞こえるわけ。
ものすごい金切り声で子どもを叱るんだよね。
それもほぼ毎日…は言い過ぎだけど二日に一回はあるわけよ。モノを投げる音も聞こえてきたり。
小学校時代はそんなの日常的に聞いていて、中学に入った頃には子供のほうも応戦できるようになってさ。
うちのお袋が本気で通報を迷うことも多かったけど、このヒステリックなママさんて、結構我が家にも文句をいいにくるんだよね。
庭の木がうちの庭に少しかかるとかなんだかんだとかで。
だから、お袋はスゲー嫌ってて。関わらないのが基本方針なんだわ。
2:おれが小学校3年生。鈴木さんの隣、うちから隣の隣の山本さん
40前半。死因は聞いてないけれど、病気系。事故じゃないってことね。
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●が我が家で、■が山本さん
山本さんはさ、粋でいなせなおっちゃんだったんだ。
こんちは!なんて言うと「おう!ユー坊!(あ、おれの名前がユーイチってことにしておいて)飯は食ったか!どれ、ダッコしてやろう!」なんてさ、もう小学生だぜー!なんて俺は返すんだ。
すごい好きなおっちゃんだったんだ。
3:小学校6年生、うちの逆隣。松田さん。45くらい。
ずっと病気とは聞いていたけれど。この方は子供いなかったな。
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●が我が家で、■が松田さん
松田さんは子どももいなかったし、接点も少なくてわりと未知の住民って印象が俺が小さい頃はあったけれど、何かで話した時に膝を折って「ユーイチ君」なんてね、すげえ優しい人だなーって思った。
4:中学校3年生、うちの庭向こうの隣の佐藤さん。40過ぎ
やっぱり病気。
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●が我が家で、■が佐藤さん
不気味じゃん?3年おきに40前後の働き盛りの男が4人続けてだよ?
そんなだからうちの町会でも「お祓いでも」ってなったわけ。
実際にうちのブロックでお祓いをしたらしいよ。
5:高校3年生、まさかの我が家。うちの親父44
死因ガン。発覚から亡くなるまで半年。ショックだったなあ。
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ここで我が家はさ、気味が悪いからって俺が高校卒業と同時に引っ越したの。けれども話はまだ続く。
6:3で松田さんが亡くなった後、俺が中学入ってすぐくらいかなあ。それくらいにさ、マイケルさんっていう外国の方が引っ越してたのね。
奥様は日本人なんだけど、マイケルさんアメリカの方で。英語の勉強をよく教えてもらったなあ
けれどもさ、マイケルさんの訃報を聞いたのは大学3年のときだよね。
年齢は40。こちらもガン。この訃報は本当に衝撃だった。
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●が我が家で、■がマイケルさん
もうさ、なんていうか「奴は日本人も外国人もかまわないのかよ!」って葬式で思ったよね。
奴?と思ってくれた?そう。奴、なんだよ。
実は我が家でははっきり認識してたんだ。
うちの台所に窓があるんだけどね。ちょっと曇りガラスの。雨とか降る日があるじゃない。
うちの窓はさ、いつからか雨が降るとね、ハッキリと女の顔がシルエットで浮かびでるの。
そしてそれはどう見ても「睨んだ女」のシルエットなんだよね。
睨んでいるようにも見える、ではないの。はっきりと睨んだ女の顔が浮かび上がるの。
お袋も不気味に思ってさ、布巾やらでなんども拭くんだよ。お掃除スプレー的なものでも拭いてた。
何度拭いても雨が降ると睨んだ女は我が家の窓に浮かび上がるんだよね。きっとそいつが悪さしてたんだと思う。
まあとにかくそんなわけでお袋はあの家には住むな、と言ってるわけ。早死にされてもかなわんってね。
それでね、社会人にもなると1人暮らしを始めて、Aの我が家の情報なんて全然聞かないようになって。
時が流れて俺が結婚した後に、嫁に俺が育った場所を見せたくて車で行ったことがあるんだ。
うちもまだ家を売ってなくてさ、1人暮らしのお婆ちゃんに貸してるんだけど。
外観を見れればそれでよかったから、車止めてさ、あそこがトイレでー、あの二階の部屋が俺の部屋でーなんてやってたら中からお婆ちゃん出てきて。
「あ、前に住んでいた者でーす、嫁に見せたかっただけでーす。すいませーん」
なんて言ってたらさ、お婆ちゃん話し相手が欲しかったのか家に上げてくれてさ。
俺が昔住んでいた家に。
嫁もいたからそこまで怪しく思われなかったかな。
世間話やら思い出話しをしてたわけ。
そしたらおばあちゃんお菓子を出してくれようと、台所に行ったわけよ。
それでふっと台所の窓に浮かぶ睨む女を思い出してさ。
「そういえばお婆ちゃん、台所の窓に変な模様が浮かび上がらない?」って聞いたらさ。ピンと来てなくてさ。
だからさ、薄気味悪い話で申し訳ないけれどって前置きして全部話したの。
三年おきに40代くらいの男が死ぬこと、
我が家の窓にも睨む女の顔がずっとあったこと。
我が家の親父もご存じの通りであること。
話を聞いてお婆ちゃんさ。「あの女は死んだよ」だって。
ハテナ?だよね。あの女??死んだ?むしろ死ぬ前は生きていた??
お婆ちゃんが言うには
「それは隣の鈴木さんの奥さんだ。人の幸せを妬んで妬んで。娘が刑務所入ってから何年かして死んだよ」だって。
そして
「あの女は生き霊となって幸せを妬んでいたんだ。他の人の幸せな生活が許せなかったんだろう。でも大丈夫。もう死んだよ。誰にも看取られず、ひっそりと家で死んでた。婆ちゃんが匂いで気がついて通報した」って。
なんだろう、それを聞いてやるせなくなってさ。
そう…ですか。しかいえなくてね。
そんなんで帰ったわけ。
帰りの車の中でさ、何故ね、何人も何人も連れていったんだろうって、何がそんなに憎かったのだろうって言ったらさ、
嫁が「きっと何人不幸にしても、ユーちゃんちみたいに家族が壊れることなく団結して不幸を受け止めて、そして前を向いていたことが一番こたえたんじゃないかな」だって。
案外、そうなのかもしれないし、もしかしたら全然違うのかもしれない。
その時なんとなく思ったのはさ、小さいころ、鈴木さんの奥さんはやっぱり怖いって印象しかなかったから挨拶以外に話したことなかったけれど、何か声をかけてあげたかったなって。
でさ、土曜日にさ、幼稚園からの同級生というか幼馴染で、住んでいるところも同じブロックだった奴と忘年会したんだ。勤め先も近い?というか、帰りの連絡駅が同じところあってさ。
そいつとは35年以上の付き合いになる。お互いに家族ができてからも、子供もいるから家族ぐるみでも仲は良い。
あ、最後に場所で書いておこうか。
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●が我が家で、■が幼馴染
いや、正直に書こう。俺はユーイチじゃない。
ユーイチは俺の幼馴染でそして親友だ。 ほとんど生まれたときからね。
そして俺はあのブロックの家で、生まれてこのかた38年ずっと暮らしている。
だからあそこで昔から立て続けに亡くなったことは知ってる。
ユーイチの親父さんのこともよく知っているし、当然松田さんの奥さんが死んだのももちろん知ってる。
けど、土曜日に初めて聞いた話もあった。睨む女とお婆ちゃんのくだりなんかだ。
ユーイチは初めて俺にそんなことを言った。だって幽霊がどうこうなんて言うやつじゃないし、底抜けに明るい奴で冗談を言うのも好きだけれど、40年近く付き合っていればね、本気と冗談の区別はできる。
楽しい忘年会でそんなネガティブな話題を言うやつじゃないんだ。
じゃ、なんでそんな話になったか?
忘年会でユーイチが「明日は何すんだ?」って聞いてきたから、俺がこう言ったんだ。
「明日は嫁に家の大掃除を命令されてる。だから窓拭きスプレーとか今日買い込んだ。なんか嫁が窓を掃除してくれってうるせえんだよ。子供は女の人が睨んでいる窓っていってビビるしさ」
来年の春にはマンションに引っ越すことにした。
詳しい人がいたら教えてくれよ。うちの家族はそれで大丈夫?