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もう手遅れね

2022/10/03

五歳上の従姉妹の話。
何だかおかしな人で、彼女と関わったことで奇妙な体験をいくつかした。今から話すのはその中の一つ。

まだ俺が小学生だった頃、近所にせいちゃんと呼ばれている人が住んでいた。
三十代の一人やもめ、痩身の、気弱そうに笑う犬好きなおじさんだった。
たまに捨て犬を拾ってきては世話をし、家には犬が何匹もいたから近所の子供たちがよく入り浸っていたのを覚えている。
舗装されていない砂利道が続く借家地帯、近所に住む人たちは皆知り合いでプライバシーなんてない、そんな所で俺もせいちゃんも暮らしていた。

ある日、件の従姉妹家族が俺の家へ遊びに来た。
従姉妹は無口で話しづらい人だったので二人でいても間がもたず、せいちゃんの家に連れて行った。
丁度せいちゃんは犬に餌付けをしているところで、垣根の向こう側にその様子を見た彼女は一言、
「あれはとり憑かれてる。もう手遅れね」と言って俺の家へ戻ってしまった。
俺は訳が分からず、また二人になるのは嫌だなあ、なんて思いながら後を追ったんだ。

それからしばらくしたある日、家の前の砂利道にぼんやりと佇んでいるせいちゃんを見かけた。
全裸で空を見上げ半開きの口からは一筋涎が垂れていた。
俺は見てはいけないものを見たような気がして自宅に逃げ帰った。
それがせいちゃんを見た最後だった。
大人たちの話では、せいちゃんは犬と一緒に家に閉じこもった、という。
心配した近所の人が飯を差し入れても、家からは出てこなかったそうだ。

それから間もなくせいちゃんは死んだ。
餓死だった。
発見されたとき、彼が飼っていた犬たちだけは丸々と太っていたという。
せいちゃんは近所の人たちの差し入れも全て犬たちに与えていたんだ。

せいちゃんの死後、家を整理した大家さんの話によると床下から異常な量の犬の骨が発見されたそうだ。
それらを殺したのがせいちゃんなのか、せいちゃんは従姉妹の言うようにとり憑かれていたのか、それとも心が病んでいただけだったのかは分からない。
真相は闇の中だ。

とにかくそれが、従姉妹と関わった最初の奇妙な出来事になった。

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