幽霊になった合図
2022/07/12
長野県のY郡の旅館に泊まった時の話。スキー場に近いくせに静かなその温泉地がすっかり気に入って、僕は1ヶ月以上もそこに泊まったんです。その時、宿の女将さんから聞いた話をします。
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女将さんにはお姉さんがいました。とても明るい性格で、二人はとても仲が良かったそうです。
ある日、冗談半分に「あの世ってあるのかねぇ」という話題になりました。話には聞いたことがあるけれど、誰も本当にあるかどうか確かめられない、もちろん二人とも結論などが出せようはずもありません。
そこで、女将さんはお姉さんに「もしどっちかが死んで幽霊になったら、お互いにわかるように合図を決めておこう」となったのです。
お姉さんは「うーん、じゃぁ、もし私が死んだら、お通夜の日に電気を真っ暗にするわ。私、ビックリさせるのが好きだから」とお姉さんが屈託なく笑って言い、で、女将さんも「じゃぁ、私も」と、笑って答えました。
しばらくして、お姉さんは突然の交通事故にあって死んでしまいました。急な事態を聞きつけた親類や知人、葬儀屋さんが集まって、通夜が行われました。そしてお坊さんが通夜の読経をあげている真っ最中、突然停電が起きたのです。
葬儀屋さんもお坊さんも親類も知人も大慌て。周りを見ると停電になっているのは自分の家だけですので、葬儀屋さんはブレーカーが落ちたと思い、懐中電灯を取り出して、身内の案内で調べるもブレーカーは正常な状態。原因は全く不明。
その時、お女将さんは思ったそうです。
「あ、あのときの約束だ…」と。
そしてふっと振り向くと、死んだはずのお姉さんが玄関に立っていて、声にならない声で「あるみたい」と笑っていたのです。
その刹那に電気が回復し、お姉さんの姿は消えてしまいました。女将さんは「お姉さんはほんとうにイタズラ好きだ」と思い、まさかこんなこと、みなには言えないからずっとうつむいて黙っていました。
でも、そのおかげでお姉さんは死んだのではなく、今は自分のいけないあの世にいっただけで、自分も行けばあえるのだ……と、死生観が変わったそうです。
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女将さんは、霊感のあるとか、オカルト好きではなく、ごく普通の人で、すごく素直に屈託なく話してくれたので、この話は本当のことだと僕の中では思えています。