ネット上に存在する不思議で怖い話を
読みやすく編集・修正してまとめました

本文の文字サイズ

クローゼットの中の男

2022/05/31

この話は、ある会社の社員寮に住んでいた時の話です。

当時、新入社員の俺は入社と共に埼玉県の某市にある社員寮に入ることにしました。その寮は鉄筋コンクリート造りの3階建てで、建物自体古く築30年は経っているとの事。寮の中もなにか陰気くさい感じがしました。

入居当日、一番乗りした俺は3部屋空いていた中から2階の奥にある日当たりの良い角部屋に入る事ができました。その部屋は12畳程あり、なぜかクローゼットが4セットもありました。1人で住むには広過ぎるくらいで収納たっぷりと喜んだものです。

入社後、1人で住むには広すぎる室内と4ヶのクローゼットを不思議に思っていた俺はある日上司に尋ねました。すると昔は4人部屋だったとの事。あの部屋で「4人はきっついなー」と思いながら納得したのでした。

寮生活にも慣れてきたある日、いつになく寝苦しい夜に唐突にそれは起こりました。なんともいえない、息苦しさと寝苦しさで眠れずに午前3時を過ぎた事を憶えています。

それまでの寝苦しさが可愛く思える程に、一瞬にして部屋の空気が変わりました。重苦しくピンと張り詰めた空気はその部屋だけ別世界のようでした。それまで聞こえていた周りの音も嘘のように消えました。とたんに恐怖に包まれた俺は、ベッドに横になったままどうする事も出来なくなっていました。

ベッドに横になっていた俺の視線のその先には、壁一面にある、クローゼットの1つの扉に釘付けになっていました。このまま見ていたらヤバイ、と本能的に思ったその瞬間、その扉が、「キィーーーー」 といいながらゆっくりと開いたのです。

恐怖で身動き1つできない俺の目に映ったのは、その扉の奥で、俺を「ジトーッ」と見つめている1人の「男」でした。クローゼットの中で、ひざを抱えてうつむき加減に座っているその男は明らかに俺を「ジーッ」と見ています。

しかしあまりにも鮮明に見えているその姿とは裏腹に、俺は一瞬にしてこの世のものではないとわかりました。いかにもサラリーマンに見えるその男は、30代前半でグレーのスーツを着ておりメガネを掛け、非常に痩せています。

男は、何も言わず、ただずっとこちらを見つめているだけです。その顔に血の気はまったくなく、とても暗い恨めしそうな表情でした。

一番強烈に感じたのは、その男の周りが漆黒の闇に包まれていることです。この世とあの世があるのなら、その時のクローゼットの中は間違いなくあの世の闇に包まれていました。

そのまま何分が過ぎたのかは、わかりません。俺は、ただただ恐怖しながらその闇に包まれた男のいるクローゼット見る事しかできません。何も言わず、しかし何か言いたげなその暗い表情の男は、闇の中に消えて行きました。

俺はそのままボーゼンとしながら朝を迎えたのです。おばけが出たからと言って仕事を休む訳にはいきません。俺は眠い目をこすりながら職場に向かいました。

その日の昼休みに昨夜の出来事を上司に話した所、驚きながらも、その「男」の事について細かく聞いてくるではありませんか。

「何歳位だった?」「顔の特徴は?」「体形は?」

俺はその質問に答えていきながら上司はその「男」を知っているのではないか?という疑念を抱きました。一通り話し終えた所で、俺は聞いてみました。
「心当たりあるんですか?」

上司の答えは「わからない」の一言でした。しかし、その表情からは驚愕してると共に明らかに「心当たりがある」と読み取れました。

と同時にこれ以上「聞くな」とも訴えている表情でした。俺は何か触れてはいけない事に触れてしまった感じがしてそれ以上何も聞くことは出来ませんでした。

それから2年後、社員寮も出て「あの夜」の事も忘れ掛けた頃、ある先輩と一緒に仕事をすることになりました。

その先輩は俺と同じ社員寮に長年住んでいたこともあり寮の主と言われてた人です。おまけに社内の事情通で何でも知っていると評判の人でした。

半年ほど寮生活が重なっていたのですがほとんど話したことはなく、一緒に仕事をするうちに親しくなったので、思い切って「あの夜」の事を話してみたのです。

その時の反応は以前上司に話した時と同じものでしたが、1つだけ違う所がありました。一通り話した所で「明日、写真持って来るから見てみろ」と。それ以上は何も言いませんでした。

俺は長年引っかかっていた「何か」が分かるかも知れないと待ちました。翌日約束通り先輩が写真を持ってきました。俺が入社する以前に撮られた社員旅行の集合写真でした。

150人ほど写っていましたがすぐに1人の男に目が釘付けになりました。あの夜クローゼットの中にいたあの「男」です。皆笑顔での中で間違いなくあの「男」が無表情で写っていました。

150人もの社員が写っている中でなぜ一瞬にしてクローゼットの男に目が行ったのか自分でもわかりません。しかし「男」は間違いなく生前の姿をその写真に残していたのです。

アッと言いながら驚愕している俺の様子を隣で見ていた先輩がすべてを話してくれました。
男は元社員だった事。
あの社員寮に住んでいた事。
俺と同じ部屋に住んでいた事。
そして今はもうこの世にいない事。
とてもあの寮が大変好きな方だったらしく長年寮に住んでいたとの事。

でもある日、急死してしまったそうです。どこでどういう亡くなり方をしたのかまではいくら聞いても教えてもらえませんでした。この話題自体なにか社内ではタブーなような空気でした。

今でもあの夜クローゼットの扉が開く音と同時にそこに居た姿は鮮明に憶えています。暗い表情をした彼がクローゼットの闇の中で「ジーッ」と俺を見つめながら。

何を伝えたかったのか俺にはわかりません。しかし今でもあのクローゼットの中でひざを抱えて座っているでしょう。新しい入居者を待ちながら…深い深い闇に包まれて。

にほんブログ村 2ちゃんねるブログ 2ちゃんねる(オカルト・怖い話)へ

よろしければ応援お願いシマス

人気の投稿

人気のカテゴリ

RSS