地面に沈んでいく足
2022/02/28
今から何10年も前。秋田は○○村の今はもうない小学校に赴任した教師の話。
その人は集落でほぼ唯一の識字人であったため、村人に「先生」と呼ばれて慕われていた。
その村では兎狩りが盛んだったため、先生も休日には鉄砲を担いで山に登り、地域のレクリエーションとして村人と一緒に巻狩りを楽しんでいたという。
冬も終わりのある日、岩手県境に近い奥山に兎狩りに行ったのだが、その日は豊漁だったそうで、みんな山頂付近まで兎を追い上げ、小休止の時間になると満足そうに談笑していた。
先生が村人と談笑しながらうろちょろしていた時、突然、足元が「ズボッ」という感じで沈んだ。あれ?と思った瞬間、今まで騒いでいた十数人の村人たちがピタッと騒ぐのをやめ、恐ろしい形相でこっちを見る。
え、なんなの? と思った途端、一人の村人が「おい先生、ゆっくり、足元を見ないでこっち来い」と言い、恐ろしい形相で両手を差し出した。
先生は逆らうことも出来ず、ゆっくりと歩き始めた。ただ、一歩踏み出す事に「ズッ、ズズッ」と足元が沈み続け、いよいよ怖くなった。
あの、これは…と先生が言いかけた途端、その村人が「いいからこっちサ来い!」と叫んだ。ワケもわからず地面を蹴ってその村人に飛びついた途端、地面がボン!!という音とともに消えた。
なんとその先生は、20m近くある崖の上にせり出した雪庇(せっぴ)の上に乗っていたのだった。つまり、さっきまで自分が乗っていた地面は地面ではなく、雪の塊だったのだ。
いやーよかった、神様に感謝だな、あと少し遅ければ、先生は春まで雪の下敷きだったでぁ…。と村人たちは大笑いしたらしいが、先生は気が気でなく、一日中震えが止まらなかったそうだ。
ただその村の集落は現在ではダムの底になり、往時の村の面影はなくなってしまったという。