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山小屋のアルバイト

2021/04/11

数年前の話。

夏休みに何か高収入のバイトないだろうか、と友人と探してた。とあるバイト雑誌に「山小屋を1日間、管理してもらいたい」という応募記事が目に付いた。日給2万円。すぐさま電話すると「締め切りました」。

がっくりしてると、次の週のバイト雑誌にも載ってたので、すかさず電話。今度はファミレスで面接までこぎつけた。

バイト代は、泊まった翌日の朝に支払われるらしい。なぜか俺ら2人は即決し、山小屋までの地図のコピーをもらい、その日がやってきた。意外と市街地から近く、私有地の山林の中にその山小屋はあった。

「私有地により進入禁止」と書かれた金網の所に、初老の男が立っており、「バイトのA君とB君だね、話は聞いてるから通って」と言い、俺らに山小屋の鍵をくれた。

10分ほど歩くと、山小屋が見えてきた。丸太で出来たのを想像してたんだが、ちゃちなプレハブだった。風呂がないのと食料持参なのが玉にキズだったが、高い日給に俺らは上機嫌だった。

バイト内容は、「山小屋内の軽い清掃と、外の植木鉢に水を朝夕やること」のみだった。そこはTVもなかったんで、俺らは適当に携帯ゲーム機で遊んだり、トランプやボードゲームしたりして時間を潰してた。エアコンもなく、最初は地獄の暑さを予想もしたが、緑に囲まれてるためか、多少汗ばむ程度で意外とひんやり心地よかった。

やがて夜になり、コンビニのおにぎりとパンで夕食を済ませた俺らは、早々とパイプの簡易ベッドで寝る事にした。その夜、物凄い嫌な夢を見た。

断片的にしか覚えてないが、とにかく
「寝てる体の下から多くの手に突き上げられて、散々触られた挙句に引き裂かれる」
と言う様な内容だった。

翌朝、最悪の気分で起きると、心なしか友人の顔色も悪い。
「どうした?俺、なんか変な夢見て気持ち悪ィーんだよな」
「夢?俺も見たがこれこれこういう夢だけど…」
「同じ夢じゃん!」
気持ち悪くなった俺らは、しばらく無言になった。

やがて、友人がポツリと言った。
「なぁ、このプレハブの床なんだけど…気のせいかもしんないけど微妙に揺れてない?」
そう言われれば、何かウォーターベッドの上にいる様な不思議な感覚が目覚めた時にあった。

夢の名残だろうと思い、別に気にも留めてなかったんだが…
「なぁ、床下見てみようぜ」
友人が言った。確かに、プレハブは地面から10cmほど浮いており、床下の四方をポールが支えている作りになってるようだった。気になった俺は、友人に同意した。

俺らは外に出た。朝とはいえ、まだ5時ちょっと前で結構薄暗い。友人は持参したミニペンライトで床下の隙間を照らした。
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「どうした!!」
「腕!!腕腕腕腕、腕がぁぁぁっぁぁ」
「あっ!!」
床下には青白い、無数の切断された腕が、散らばっていた。

だが、腕の切断面を見た瞬間、マネキンの腕だという事がすぐ分かった。ただ、異様なのは全てのマネキンの腕に、女の顔写真(ポラロイド)と名前がマジックで書いてあった。全部で50個近くはあったんじゃないだろうか。マネキンであることは、触って間違いなく確認した。

「何だよこれ…普通じゃねーよ…バックれようか?」
「馬鹿、一応金もらうまで待とうよ。それでまた新たに何か言ってくるようであれば、逃げよう」
もう一度プレハブに戻る気にもならず、俺らはボーっと外に立っていた。

あれこれ話している内に7時になり、昨日の初老の男がやってきた。
「お疲れ様。早いね。早速、これバイト代ね…ところで提案があるんだけど、 あと3日間くらい泊まれないかな?もちろんバイト代は3日分の6万払うけど」
「お断りします」
俺たちはハモるように言い、一目散に歩いた。

振り返ると、男が苦々しそうな顔をして、携帯を耳にあてこっちを睨んでいた。それ以来、バイト雑誌でその応募記事は見たことがない。おそらく、あのプレハブもないだろう。

帰り道、友人がいった。
「何かの実験だったんだろうね」
俺は軽く頷いて、同意した。

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