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さっちゃんと遊ぶ娘

2021/03/01

一年前、友人家族ととある湖の近くでキャンプをしました。昼にテントの設営などを終え、夕食まで大人は休憩タイム、子供達は周辺で遊んでいました。

そろそろ夕食をと思い子供達を呼んだところ、小1の娘だけ見当たりません。子供達に聞いてもさっきまで一緒に遊んでいたというのみでわかりません。時期がずれていたのとマイナーなキャンプ場だったからかキャンプ客は私達グループともう二組のグループのみでした。

見通しもよい場所なのですぐに見つかると思ったのですがなかなか見つかりません。すべて探し尽くし他に隠れるような場所はないはずなのに見つからないのです。キャンプ場の管理人さんもこんなことは始まって以来だ、考えられないと首をひねるばかりです。

日も暗くなり、もしや湖の底に・・・と不安になり、然るべき機関に協力を要請しようと話し合っていたときひょっこりと娘が現れたのです。一体何処にいたのか問い詰めるとさっちゃんと遊んでたと言うのです。

さっちゃんというのはいつの頃からか名前を口にしている娘の空想の友達です。最初は人形にさっちゃんと名付けて遊んでいるのかと思ってたのですが、違ったようでさっちゃんと人形で遊んでいたのです。その後も思い出したように名前が出てくる程度で、このくらいの歳だと空想遊びするし実害がなければいいかと思い放置していたのでした。

さっちゃんのことは気になりましたが、とりあえず迷惑をかけた方々にお詫びと御礼をし、娘も無事に戻ってきたのでキャンプを続行しました。キャンプから帰ってきてからの娘は普段通りで聞けばさっちゃんの話はするものの現実の友達との遊びが忙しいためか自ら進んで話をすることはなくなりました。

こうやって空想より現実の世界の比重が高くなるのかとホッと一安心していたある日の事、息子がお姉ちゃんが知らないおじさんと部屋で遊んでいると言いに来たのです。

え?家の中に不審者が??と恐る恐る二階の子供部屋に行くと娘は一人でお人形遊びをしているだけで誰もいません。
「この部屋に誰かいた?」
娘に尋ねると、
「あー、さっちゃんの事?遊んでっていうから、さっきまで一緒に遊んであげてたよ。」

なんとさっちゃんというのはおじさんのことだったのです。しかも娘だけでなく息子にも見えた??空想じゃなくて、だれかが家に忍び込んだのか?何年も前から?

パニックになりつつ、とにかく子供達にはそのおじさんとは絶対に遊ばないように言い聞かせました。夫にその話をしたところ、そういえば子供にしか見えないおっさんの話があったよなと言い始めました。確かに昔そんな話があった気がします。

口裂け女系の都市伝説で細かい事は忘れましたが子供にしか見えないおじさんがいて、ついていったら帰ってこれなくなるとかそんな話です。その話と今回のこととの関連もわからず、当然解決法も思いつきません。

結局どうすることもできず、不安と気持ち悪さを感じながら毎日を過ごしていました。それからしばらくたったころの話です。夜中に目が覚め、ふと目をやると真っ暗なリビングの滑り台をスーと娘が滑っていました。

少し説明すると我が家はリビングに併設している和室に布団を敷いて家族で寝ていて、リビングには子供用のジャングルジムと滑り台が一体化した遊具を置いています。

あまりにもびっくりして声をかけずにぼっとその光景を眺めていました。よくみると娘の隣に人影がみえます。暗くて良く分からないのですが大人のようです。夫は隣で寝ています。

これがさっちゃんなんだと確信して思わず娘に「こっちに来なさい」と叫んでしまいました。急に声をかけられ、びっくりした娘が、こちらに来ようとしましたが、その人影は、娘の手を掴むと暗闇の方に引っ張り始めました。

私は慌てて布団から飛び出ると娘を抱きかかえ、その人影の手を振り解きました。しかし振り解いても振り解いても掴まれるのです。よく見ると腕は一本だけではなく5、6本あるようでした。

人間というのは驚きすぎると声が出せないようで、私は無言でその手と格闘しました。後で考えるとすぐそばに夫がいたので助けを呼べたはずなのですが全く念頭にありませんでした。

人影は1つで顔をあげたらすぐそこにあったのですが、みてしまったら最後のような気がして顔をあげることができず結局さっちゃんの顔をみることはできませんでした。

ようやく手を振り解いて布団の方へ戻りました。幸い影は追いかけて来ず暗闇に留まっていました。1時間、ひょっとしたら10分くらいだったかもしれません。ふっと気配がなくなり影は消えてしまいました。

そうなってやっと夫の存在を思い出し叩き起しました。夫は口には出しませんが私達2人が寝ぼけていたと思っているようです。私自身ひょっとしたら夢だったのかもと思うこともあります。ただ娘も私も同時に寝ぼける事があるでしょうか?あの腕の感触は夢ではないはずです。

あれからさっちゃんは娘の前には現れていないそうです。なんとなく、もう娘の前には現れないと確信しています。

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