青い手ぬぐいの男
2020/12/09
猛吹雪が吹きすさぶ真夜中、福井県の回船問屋・鈴木利助商店を訪ねる客があった。
青い毛布を被り、顔を手拭いで隠す怪しい男。
番頭に
「店主を呼んでくれ」
とだけ言うと、後は黙りこくる。
店主の村吉が現れると
「あんたの親戚が危篤だ。もう永くないからあんたを呼んでくれと使いを頼まれた」
と言った。
あわてて準備をして出て行く村吉。
数十分後、男はまた商店に現れる。
今度は村吉の妻に取り次ぐように頼んだ。
「亭主があんたも呼んでいる。来てくれ」
妻もまた男と共に出て行った。
数時間経って、男は村吉の自宅に現れた。
応対した村吉の母に
「臨終が近い、あんたの顔を見たいと言っている」
そう言い、村吉の母を連れだした。
さらに数十分後、再び村吉の自宅を訪ねた男。
村吉の娘も呼んでいるという。
しかし、子守を頼まれていた女性は男の風体に不信を抱き、断った。
男は抗弁するでもなく静かに去って行った。
昨日の吹雪が嘘のように晴れ渡った翌日の朝、大工の男が現場への道を急いでいた。
その途上、橋に差し掛かった時のことである。
新雪を真っ赤に染める夥しい量の血痕を発見した。
すぐさま大工は警察に通報。
警察の懸命な捜索の結果、川底から無残に切り刻まれた村吉の母と妻の死体を発見した。村吉の死体は発見されなかったが、異常なまでの血痕の量から村吉も死んだと推定された。
村吉は村での評判もよく恨む者など無かった事から容疑者さえ浮かばず、事件はいまだ未解決のままである。