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頭のおかしい女

2020/12/06

池袋から徒歩圏内、家賃3万という家に住んでいた。トキワ荘的な、玄関が一箇所で廊下にそれぞれのドアがある、トイレも共同という今ではなかなか珍しい物件だ。

当時はライブハウスで仕事していたために収入も少なく、また職場まで自転車で通えなくもないということで、友人からの紹介でここに住んだ。俺の部屋は2階で4畳半、友人は1階で3畳だった。

他の住人はどう生活しているかもわからない中年から老人で、全体的にくたびれた感じの人が多かった。そんなボロなところではあるが、なんとか生活にも馴染んでいったある日のこと、前日たまたま漫画喫茶で某漫画を一気読みし、夕方手前に帰宅したと思う。

玄関を開けると、床に赤い500円玉ほどの汚れが点々としていた。まるで血液のような色をしていた。1階部分は友人の部屋あたりまで、階段にもその汚れがあり、2階の自分の部屋まで続いていた。嫌だなぁとは思ったが、特に何も異変もなく、後日誰かが拭き取ってくれたのだろう、その汚れはなくなっていた。

ある日、友人と酒でも飲もうかという話になり、部屋から焼酎など2本ほど持って友人の部屋へあがった。そこで以下のような話を聞かされた。

先日、頭のおかしい女がやってきた。黒髪ロングだがボサボサで、顔もイッちゃったような風貌。薄汚れたコートを着ていた。手首からがと思われる出血があり、刃物を持っていた。玄関をあがり、片っ端からドアをノックし、出た人に「どこ?どこ?」と。

作りがボロなので、そういうやり取りも部屋にいても聞こえてきた。出た人は皆わからないと答えるしかなかった。そして女が友人の部屋にもやってきた。友人は迷わずに俺の部屋を教えたそうだ。

俺、その日漫画喫茶に行ってなかったらどんな目にあったんだろう。ただなにより怖いのが、そんな女がやってきて、なぜ誰も通報しなかったのだろう。

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