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誰も気づかないような野池

2019/08/29

大学生時代だから、もう10年ほど前の話。
実家は兵庫県の有名な野池群の近くにある。
帰省する度に幼馴染とバス釣りに行ってた。
今年も一緒に行こうとツレに電話したが、あいにく繋がらなかった。
とりあえずメールで、日時と場所を送って当日を迎えた。
返事はなかった。
当日は夕方17時くらいに到着した。
総合病院のすぐそばにある小さな野池だ。
ここは山に囲まれているため、病院の病室上から覗かないと誰も気づかないような野池。
当時はカーナビもそんなに普及しておらず、アングラー(※釣り人)はほどんといなかった。
プレッシャー(※釣り人の足音などの、魚にかかる外的な負荷)も少なくよく釣れる。
気づけば辺りは真っ暗で、21時を回っていた。
ガサガサッ草むらから音がしたので、覗いてみる。
そこには連絡を取ろうとしていた友人がいた。
久しぶりの再会で嬉しくて一生懸命話かけた。
でもヤツはなんとなく元気がなかった。
ヤツはタックル(※釣り道具を入れておく容器)を持ってきておらず、なんとなく様子を見に来ただけだったらしい。
少し話して、明日二人でゆっくりと釣りをすることにした。
その別れ際、ヤツがポツリと言った言葉がいやに耳に残った。
「ここなぁ、最近顔の潰れた男がよく現れるねん・・・」次の日の朝、約束の時間に野池に行ったがヤツはいなかった。
釣りをしながらのんびりと待ったが、何時間経っても来ることはなかった。
昼を過ぎた頃、どうせ寝てるのだろうとヤツの家まで呼びに行った。
ピンポーン。
ガチャッ。
久しぶりに見たヤツのおばちゃんの顔だった。
「お久しぶりです。○○くんいますか?」少しの沈黙の後、おばさんは寂しそうな顔をしてこう言った。
「○○ねぇ、3ヶ月ほど前から入院してるの」頭を何か鈍器で殴られたような衝撃だった。
詳しく聞くと、あの野池にバイクで向かう途中に転倒し、現在でも意識が戻らないらしい。
あの野池横の病院に入院しているそうだ。
訳が分からなかったが、昨日ヤツと会ったとは言うことができなかった。
怖くなりその日はさっさと実家にに戻った。
次の日になり、気分も落ち着いたので、とりあえずヤツの見舞いに行くことにした。
病院に到着し、ナース室でヤツの病室を聞く。
ヤツは眉に力を入れ、顔をしかめたような状態で眠っていた。
とても苦しそうだった。
20分くらい意識のないヤツに話かけた。
また釣り行こうといった。
そろそろ帰ろうと立ち上がり、彼のベッドを出た瞬間だった。
迎えのベッドのカーテンからシャーッと音がして、中から人が出てきた。
フッとその人をみた。
顔中包帯だらけだった。
血が染み出ていた。
唯一包帯の隙間から見えたのは、左目だけだった。
で、ふと思い出したんです。
昨日ヤツが言ってた。
「ここなぁ、最近顔の潰れた男がよく現れるねん・・・」気のせいだと思うけど・・・

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