事故の記憶
2019/07/21
28の時、ふと思い立って自動二輪の免許を取り、
オフロードのバイクを新車で買った。
納車の日、バイク屋さんが自宅でバイクを開荷してる時、
母親が後ろから見てて、
「また買ったの?今度は事故らないでね」
と俺に言った。
えっ?と振り向くと、
「前にもこんな大きなバイク買って、事故起こして入院したじゃない」
と母親が続ける。
その時俺も、似たようなオフ車で事故って、
大腿骨骨折で一ヶ月入院したことを思い出した。
いやいやちょっと待て、
俺は学生の頃は原付きのスクーターに乗ってたものの、
社会人になって車にしか乗ってなかったハズだ。
二輪の免許取るまで、バイクのギア・クラッチの使い方すら知らなかったし、
こんな大きなオフ車になんか乗った事もない。
「それっていつのことだっけ?」
母親に返してみたら、母親もあれ?って感じの表情。
その日の夜、もう一度母親と話し合ったが、どうにも釈然としない。
俺も母も、俺の事故の記憶があり、入院の記憶もある。
しかし、どう考えても時期もハッキリしないし、
免許を持っていなかったから、乗るハズがない。
母親の方も俺が事故った日、仕事が休みで俺の事故の報せを受け、
入院用の荷物を病院まで持ってきた覚えはあるが、妙に記憶が曖昧だと言う。
そこへ弟が仕事から帰ってきた。
弟は県外の高校へ行き、そっちで就職し、
三年前父が他界したとき帰ってきて、地元で再就職。
弟が覚えていたら、事故は三年以内の出来事のハズ。
果たして弟も覚えていた。
「見舞いに来たやん」
と呆れる弟に、
「どこの病院だった?」
と聞くと、黙り込んでしまった。
記憶としての事故はあるのだが、事実としての事故がない。
しかも、家族全員どころか会社の記録さえ、
俺はひと月休んだハズなのに、タイムカードは休んだことになってない。
バイクで出勤すると、皆が
「またバイク買ったの?また事故るなよ」
と声を掛けてくる。
仲の良い社員数名と上司に聞いても、
皆同じく俺の事故と入院と見舞いの記憶があるのに、
いつ、どこの病院という記憶がないのだ。
ここまでくると俺が事故りそうな話なんだが、
まぁそんな事もなく、それから10年がたつ。
今は結婚もして、バイクは売って車しか乗ってない。
あの時の事は未だに不可解。