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数学的可能性

2019/07/14

数学的可能性について話していた。
同じ姓名で同い年、顔、声、性格が似ている人物が、同じ会社で働く確率とか、
駅で「おとうさん」と女性が叫ぶと、
ラッシュアワーでもみくちゃになった人たちのうち何人が振り返るか・・・とか。
地域やその場所の人数を割り出したり、
それを数式で表そうとするととてもややこしいので、
僕達はひたすら話だけに興じた。
酒のつまみを買出しに行こうと、僕達はコンビニへ行った。
スルメやマヨネーズなんとかを買って、水割りの氷を他で買い、
僕のマンションへ戻る途中に友人が言った。
「今、俺等がお前のマンションへ帰ろうとしてるわな?
そいでさ、留守であるお前の部屋の前に、今誰かがいるわけよ」
「怖い事言うな」
「いや幽霊じゃなくてさ、誰かがいるわけよ。誰かが」
「うん、誰かがナ」
「その誰かがさ、お前がいないので、あきらめて帰ろうとするわな」
「帰ろうとするんだな」
「その人が、俺等とマンションの前でバッタリはちあわせする、という可能性」
「低いな」
そこまでの会話が、曲がり道から突っ込んできた自転車によって途切れた。
「あぶないなあ」
「ごめんなさいぐらい言えよなあ」
自転車はぶつかりそうになった僕達に目もくれず、猛スピードで遠ざかって行った。
マンションの前に着くと、なぜか友人が立ち止まった。
どうしたのかと聞くと、
僕の名前を呼ぶ女性の声が前(マンション入り口)から聴こえたらしい。
「またまた~」と冗談はよせよっぽく誤魔化したが、
今思うと僕もその場所で、友人が立ち止まるのとほぼ同時に違和感を感じていた。
エレベーターに乗り、その中で自転車野郎に憤慨しながらも話は続いた。
「幽霊が名前を呼んだ可能性」
「違うってだから」
「これはやばいっていう確率」
部屋に戻ると、僕達は更に怖い系を加味して語り合った。
「か細い声だったような、気のせいだったような」
「近所のガキだよきっと」
「お前をうらんで死んだ女の霊だ」
「そんな奴はおらん」
心霊ドラマの話題になった。
よくドラマでは、絶好のタイミングで電話が鳴ったりする。
電話をかけてきた相手が誰であれ、
恐れおののいている主人公の家の電話が鳴る可能性。
「可能性は高いと思うなあ」
「低いよ、普通」
「家にいると結構かかってくるよ。携帯も」
「セールスばっか」
そこで友人が提案した。
「今から一時間以内に知り合いから電話が掛かって来ると、
心霊ドラマのパターンは嘘じゃない」
そう言って、まさに友人が電話を指差したその時、電話が鳴った。
電話に出ると、僕が付き合っている女性からだった。
「さっき、おれのマンションに来た?」
『行ってないよ』
しばらくして彼女が来た。
マンションの入り口で男性の声を聴いたらしい。
名前を呼ぶ声でなく、低い声で二秒ぐらい「あーーーーーーー」と気の抜けた感じで。
幽霊とか呪いとかそういう雰囲気じゃなく、ごくあたりまえに。
一週間か十日ほど?たったころ、旅行先の彼女から電話があった。
夢をみたらしい。
僕と友人があまりに仲が良いので、ちょっと嫉妬した彼女が、
自転車で道を歩く僕と友人にぶつかる。
マンションへ先回りをし、僕の名前を呼ぶ。
ぞっとして、僕は可能性が好きな友人に電話をかけた。
「なあ、これって生霊とか、そういうんじゃねーの?」
『あーーーーーーー』
そういう話は興味が無いらしく、僕等は話もそこそこに携帯を切った。
僕は彼女の聴いた「あーーーーーーー」を即座に思い出した。

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