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生後まもなく(2週間以内)の記憶

2019/07/05

俺は生後まもなく(2週間以内)の記憶がある。
憶えているのは、
ベッドとその横で添い寝している優しそうな女。
生後間もない俺は、
この女に親近感というかぶっちゃけ好きだと思った。
多分、母親に対する感情だろう。
暫くぼーとしていると、突然ドアをばーんと開けて、
恐ろしい形相の年取った女とそれより若い女が、
怒鳴りながら部屋に入ってきた。
俺(生後間もない)は本能的にこの二人は怖いし嫌いだと思った。
その後の記憶はない。
この記憶の意味がわかったのは、
それから30年以上後のことだ。
盆休みに嫁と実家に帰省したとき、
俺の母親が嫁にこんな昔話をはじめたからだ。
俺は生後数日後に、産院の中で誘拐され騒ぎになったらしい。
すぐに同じ産院の中で俺は発見されたわけだが。
誘拐の犯人は、中絶するために入院していた水商売の女性だった。
子供を堕したもののやはり子供が可愛く、
たまたま生まれたばかりの俺を見かけ、
つい自分のベッドにつれてきてしまったらしい。
つまり、あの時怒り狂って部屋に来た二人は、
助産婦と俺の本当の母親だったわけだ。
でも、俺にはこの女性を責める気持ちはまったく無い。
というか、その後のこの女性の人生が幸福であったことを祈っている。
ところで、このことから考察すると、
生後間もない乳児にも、ある程度の判断力があるような気がする。
すなわち、人間の男女の判別・老若・喜怒哀楽恐怖の感情・好き嫌い、などだ。
「憶えているぜ。あのとき婆さんと二人で怒鳴り込んで来ただろ?」
て言ったら、俺の母親はびっくりして目を丸くしてたよ。

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