リビングの物音
2019/07/02
2年位前の話です。
僕は当時、一人暮らしをしていました。
借りていたアパートは1LDKで、
リビングとキッチン両方にテレビがありました。
平日は、会社から帰ると風呂に入って、
キッチンでテレビを見ながら食事をするのが習慣で、
そのあいだ、リビングの電気は消してあります。
ある夜、いつものようにテレビを見ながら、
キッチンで夕食をとっていました。
すると暗闇のリビングから、
カシャカシャと何か金属の鎖か何かが落ちるような、
小さな物音がしました。
なんだろうとリビングに行きましたが、
何も変わったところはありません。
そのときは特に気にすることもなく、
そのまま夕食をとり終えました。
しばらくたった夜、同じようにキッチンで夕食をとっていると、
暗闇のリビングから、ズズーーーと、
今度は壁を木の棒で軽く擦るような物音が聞こえてきます。
ん?とリビングを覗き込み、今度は電気もつけましたが、
やはり変わった様子はありません。
そのときも気のせいだと思い、やり過ごしました。
さらにそれから数日たったある夜の夕食中、
またしても電気を消したリビングから物音です。
カタッと、今度は小さなビンが倒れるような音です。
これははっきりと聞き取れました。
隣の部屋とか上階とかではなく、
明らかにうちのリビングの中の音です。
速攻でリビングの電気つけました。
しかし、やはり見た限り異常なし。
そもそも、そのような音をさせるビンすらリビングに置いていません。
得体の知れなさで、ここで初めて僕は怖くなりました。
その後しばらくは、そのようなことは起こりませんでしたが、
ついにその日は来ました。
その日は、仕事が繁忙期の残業で、夕食は午前1時過ぎでした。
コンビニの弁当を食べながらテレビを眺めていると、
ドサドサドサっと、大量の本か何かが床に落ちるような物音が、
リビングで発生です。
椅子から飛び上がって、
リビングに駆け込み電気をつけるも、やはり何もなし。
音の主と思われる本すらありません。
いつのもまま。
でも、明らかにこのリビングから音は聞こえたのです。
全身に鳥肌が立つような恐怖に襲われ、
呆然と立ち尽くしていると、
突然リビングにある電話が鳴りました。
そのとき僕は、電話といえば携帯で事足りており、
プライベートも仕事も、すべて電話は携帯を使用していて、
家の電話はひいてはいたものの、まったく使っていません。
そもそも、この家の電話番号を知らせているのは、
実家と会社の人事部だけです。
友人や知り合いは、誰も知りえるはずの無い番号です。
もちろん、電話帳にも登録していません。
僕は、反射的に電話を取りました。
「・・・はい?」
電話の向こうは沈黙しています。
「もしもし、○○ですが?」
無言状態が続いています。
僕が電話を切ろうとしたそのとき、
受話器の向こうから声がしました。
ナビゲーターのような、年齢が推測できない、
感情のこもっていない女性の声です。
『・・・いまの、いまのは私がやったんじゃないんです』
「えっ?」
『これまでのも、私がやったことじゃありません』
「・・・?あのどちらにおかけでしょうか?」
『私じゃないんです』
「・・・」
『ただ、もし今度音がしても、もう見に行ったりしないでください。
そうすれば音はなくなります』
「・・・」
それから5秒くらい無言状態で、そのまま電話は切れました。
その晩は恐怖で眠れませんでした。
次の日からリビングは夜は常に電気をつけ、
テレビもスイッチオンにした状態にしておりました。
電話の相手が言ったような、
『次に音がする』ようなことも、それ以来ありませんでした。
転勤より、それから4ヵ月くらいで実家に戻ってきましたが、
いまでもあの時のことを思うと怖くなります。