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魚のおっちゃん

2019/06/21

曾祖母さんから聞いた。
曾祖母さんが子供の頃、曾祖母さんの実家の近くの山に変なやつがいた。
目がギョロッと大きく眉も睫も髪もない。
太っているのだがブヨブヨしていなくて、顔も体もツルツルのっぺりしている。
いつも全裸で肌は青白い。
ちんこはついていなかったが女にも見えない。
まるで魚みたいな印象なので、曾祖母さん達はそいつを魚のおっちゃんと呼んだ。
魚のおっちゃんのことは、曾祖母さんと曾祖母さんの兄貴だけの秘密だった。
魚のおっちゃんのことを奇形のようなものだと考えていたので、
おっちゃんを見せ物にしないためだ。
魚のおっちゃんは、曾祖母さん達によくきのこをくれたし、
曾祖母さん達が怪我をすると悲しそうにする。
だから、優しいやつなんだろうと考えていたらしい。
魚のおっちゃんは絶対喋らなくて、表情はだいたいいつも無表情だが、
大雨や洪水の前だけ、大きな岩の前に来て岩を睨み、
「うぅ うぅ うぅ」
と唸った。
ある日も曾祖母さんは、魚のおっちゃんが唸るのを見かけた。
大雨が来ると思って曾祖母さん達はあわてた。
だが何も天災はなくて、かわりにお喋りで口が悪いガキが、
魚のおっちゃんの噂を流しはじめた。
そいつは異形じみたおっちゃんの姿まで正確に噂にしていて、
そのせいか噂はしばらく笑いのネタにされて、すぐ消えた。
噂が嘘じゃないと知ってるのは、曾祖母さん達だけだったはず。
曾祖母さん達は噂を知って、すぐ魚のおっちゃんのところに行った。
だがおっちゃんはいなかった。
毎日毎日おっちゃんを探したが、大雨の前に岩の前で唸ったりもなかった。
魚のおっちゃんはいなくなってしまった。
曾祖母さんが最後に魚のおっちゃんを見たとき、
魚のおっちゃんはいつもはじっと岩の前で唸るだけなのに、
そのときは曾祖母さんをはっきり見た。
そして両手で自分の顔を覆ったそうだ。
曾祖母さんには、それがまるで泣いているように見えたという。

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