お気に入りのワンピース
2019/06/14
知人の祖母・Nさんが若い頃体験した話だ。
Nさんにはお気に入りの服があった。
生成り地に小花が少し刺繍された、
可愛らしいデザインのワンピース。
Nさんはその日も、
お気に入りのワンピースを着て
買い物に出かけた。
そして帰宅後はすぐに着替え、
ワンピースをハンガーに通して鴨居にかける。
湿気を飛ばしてからしまう為だ。
そうしている内に、外出の疲れからか、
ついうたた寝をしてしまったのだそうだ。
しばらくして目が覚めたNさんは、
ぼんやりとあたりを見回した。
すると、鴨居にかけたワンピースが、
風もないのに揺れているではないか。
不思議に思い目をこらすと、
裾から見え隠れする物がある。
生成りのワンピースより、もっと白い何か。
それは音もなく降りて来た。
人の爪先であった。
凍りつくNさんをよそに、
白い脚はゆっくりと降りて来て、
その姿を現して行く。
爪先から甲、くるぶし、ふくらはぎ…
だがいつまでたっても膝は見えず、
それが更に不気味だった。
とうとう、力なく垂れた足先が床まで届いた。
その途端、脚全体がぐにゃりと曲がった。
まるで飴細工の様だったという。
脚はなおも伸び続け、白く長く、
畳に二筋のとぐろを巻いている。
これは一体何なのか。
恐る恐る視線を上げたNさんの目に飛び込んで来たのは、
今まさに、ワンピースの襟元から出て来ようとしている、
真っ黒な頭だった。
Nさんは我に返り、這う様に逃げ出したという。
このワンピースは、結局捨ててしまったそうだ。