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旧制服の警官

2019/06/13

地下鉄サリン事件が起きた年の夏。
当時、我が家は四室のみの小さいアパートを経営していた関係で、
何度か警察が巡回に来ていた。
八月のその日、高校野球を見ていると玄関のチャイムが鳴り、
応対に出た母が何か話し込んでいるので、様子を見に出た。
玄関には制服姿の警察官がいた。
小太り、中年のごく普通の警官だった。
彼は
「すみませんが、アパートの住人の件でお話を伺いたいのですが」
と言いながら名刺を差し出した。
受け取った名刺には、
『○○警察署 刑事課 ××』
とあったが、不思議なことに××の部分が読めない。
難読漢字とか珍しい名字というわけではない。
ありふれた漢字なのに、名字として意味を成していない、
というか、私の脳がどうしてもそれを意味のある文字として認識しない、
という感じなのだ。
実は私は国語科教師であり、漢字には多少なりとも自信がある。
簡単な文字なのに、なぜ読めないのかわからない。
それから警官は、母が持ってきた住人の資料を改めると、
問題無し、というような事を呟き立ち去ろうとしたが、最後に振り返ってこう言った。
「なぜ、私が今日来たのかお分りですよね」
え?逃亡している地下鉄サリン事件の実行犯の、捜索の為なのでは?
とっさに返事を出来ずにいると、彼は繰り返した。
ゆっくりと区切るように、
「私が、なぜ、今日、来たのか、おわかりですよね」
『今日』を特に強調するような、奇妙な口調だった。
そして警官は立ち去った。奇妙な違和感を残したまま。
それから…その日は八月十五日のお盆である事。
その日が外気温36℃を超える日であったのに、警官は冬の制服を着ていたこと、
小太りなのに汗一つかいていなかったこと、
更にその制服も旧いデザインであったことなどが、
ゆっくりと思い出されてきた…。
これが私の、少し奇妙な体験である。
母にも確認したが、母の記憶では、
警官は名刺ではなく警察手帳を広げ名前を示し、すぐにしまったのだそうだ。
だが同じく、名前は全く記憶していなかった。
単純に警察マニアの偽警官だった可能性も考え、
○○警察署に問い合わせる事も考えたが、
警官はメモも取らず、住人の本籍を確認しただけだし、
何より『名前が解らない』奇妙な感覚の説明がつかないのでやめた。
「お盆に帰ってきてまだ働いてる、熱心な殉職警官なのでは?」
というのは弟の意見である。

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