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大切な電話

2019/06/09

俺が大学2年の時の実話です。
その日のことは、十数年経った現在でもはっきりと覚えている。
その日、朝起きると、
『今日は絶対出かけちゃダメだ。大事な電話がかかってくるぞ』
と、何の根拠もないのに、なぜか強い確信が胸の内から沸きあがってきた。
なぜか分からない。
でも俺はその予感を信じて、大学の講義を自主休講し、
自分の部屋まで電話コードをのばし、
かかってくるあてのない電話をじっと待っていた。
お昼過ぎ、1本の電話がかかってきた。
それは高校の同級生の女のコだった。
なんでも、今は東京に住み込みで働きに出ているが、
数日休みがとれたので帰省していて、ちょっと電話してみた、とのことだ。
その子とはあまり話しをしたことがなかったのだが、
電話で話しているうちに高校の思い出がよみがえってきて、
なんだか楽しい気持ちになってきた。
そんな雰囲気だったので、
「せっかくだからこれから会おうよ」
と誘ってみたが、
『今日はダメなんだ、でもまた連絡するね』
という返事だった。
それからも、いろいろと高校の頃の出来事を言いあって、笑ったりした。
なんとなく話題もなくなって、
そろそろ電話を終わろうかという時、
彼女はこんなことを言った。
『ねえ、そういえば、B子ちゃんおぼえてる?
あの子に電話したんだけど、なかなか繋がらなくて・・・』
B子というのは、俺と同じバレーボール部に入っていた同級生で、
俺とはまぁ仲が良かった女の子である。
『私、すぐに帰らなきゃいけないから、Aクン(←俺)に伝言頼めないかなぁ』
と言うのである。
別に断る理由もないので、すぐに「いいよ」と了承した。
『あのね、こう言ってもらえば分かると思うんだけど、
B子ちゃんといっしょに書いた手紙、もういらなくなっちゃったから、
捨てちゃっていいよって、それだけ』
「うん、わかった。伝えておくよ」
と、俺は電話を切った。
はて、電話ならいつでもできるのに、
どうして伝言頼むのだろう?と、ふと思ったが、
B子ともたまには連絡を取りたかったし、
その口実が出来たので深くは考えなかった。
1週間ほどたった夜、俺はB子の家に電話をした。
B子はすぐに電話口に出た。
俺からの電話を少し驚いているようだった。
「こないだね、(仮にCちゃんとします)から電話があってね、伝言頼まれたよ」
『え?C・・ちゃん・・?』
「うん。ええと、いっしょに書いた手紙はもういらなくなったので、捨ててください、って」
俺は頼まれた通り伝言を伝えた。
・・・どうしたんだろう?
B子から返事がない・・?
なんだか電話の向こうで、しゃくりあげる声がかすかに聞こえる。
・・・泣いてる?
「どうしたの?」
俺は心配になり声をかけた。
『あのね、Aクン、ヒクッ、私がCちゃんと仲が良かったのは知ってるでしょ』
いつもつるんでいたのは知っていたので、俺は「うん」と答えた。
『Cちゃんといっしょに書いた手紙ってね、ラブレターなの。
ヒクッ、それね、Aクンへのラブレターだったの』
どういうことか飲みこめず、俺は何も言えなかった。
『あの頃私たち、Aクンが好きだったんだヨ。
ヒクッ、でね、いっしょにラブレター書いたの。
渡すつもりは最初からなかったから、将来結婚してください、とかね・・・書いてたの・・・
それをね、卒業するとき、Cちゃんが私に持っててって言うから、私が預かったの・・・』
俺は何だか良く分からないまま、
「え?今Cちゃんて何してるの?」
と、とっさに聞いた。
『・・・Cちゃん・・・Aクンしらなかったの?
ヒクッ・・・Cちゃん高校卒業と同時に、
急性○○病(病名は伏せます)で入院してたんだよ』
B子はさらにこう続けた。
『先週、Cちゃん手術したの・・・でも・・・だめだったみたいで・・・』
そこからは、B子の泣き声で会話にはならなかった。
話はここまでです。
B子が言うには、あたしの電話は夜かければすぐに繋がるので、
きっとCちゃんはAクンと話しがしたくて、
B子の電話が繋がらないと嘘を言ったのだろうということだった。
俺はあのとき、Cちゃんと電話で楽しく話しができて、
本当に良かったと思っています。
不思議な体験は、冒頭の予感の部分だけですが。(すみません)
後日談として、B子とはこれが縁(?)で結婚しまして、
今年結婚10年目になります。

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