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視界の隅を何かが横切った

2019/06/01

蒸し暑い夏の夜、窓を全開にしていた。
窓の外1メートル先には隣家の白い柵があり、
朝顔の蔦が絡まっている。
その柵の後ろには白い塀があった。
窓の前に置いたテレビを見ていると、
視界の隅を何かが横切った。
視線を移すと、隣家の柵の後ろを
黒いナマコのようなものが移動していた。
驚いてよく見るとそれは黒猫だった。
それだけだったら平凡な風景だったのだが、
その黒猫は忍者服を着ていたのだ。
黒猫に黒い忍者服。
隣家が新たに飼い始めた猫なのだろうか?
近辺で黒猫を見掛けたのは初めてだった。
飼い主のエゴであんなもの着せられて
可哀想だなと思ったのだか、可愛いいのも事実である。
黒猫は悠々と塀の上を歩き、
闇に消えていった。
翌日、あの猫にまた会いたいなと思った僕は、
お菓子タイプのキャットフードを買った。
夜になって、隣家の人に見つからないように
窓から上半身を乗りだし、手を伸ばして、
柵の後ろの白い塀の上に
キャットフードを置こうとして気が付いた。
それは塀などではなく、
厚さ数ミリの白いプラスチックボードが
柵に立て掛けられているだけだったのだ。
その後、あの猫を見掛けることはなかった。

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