新聞の集金
2019/05/23
集金に行ったその家は、
オートロックタイプのワンルームマンションでした。
玄関ホールから呼び出しチャイムを鳴らしました。
鳴らしてしばらく経って、
『・・・はい』
と男の人の声がしました。
寝起きなのか、
ひどくテンションの低い声でした。
集金に来たことを告げたら、
黙ってオートロックのドアが開きました。
エレベータで目的の部屋へ行き、
玄関のチャイムを押しました。
チャイムの後にちょっと間があって、
かちゃりと鍵を開く音がしてドアが少しだけ開きました。
が、いくら待っても人が出てきません。
仕方ないのでドアを引いてみました。
やっぱり玄関には誰もいません。
「すいませーん。○○新聞ですー」
声をかけましたが、反応がありません。
何度声をかけてもチャイムを鳴らしても、
反応がありません。
奥の部屋からはテレビの音が聞こえています。
人がいるのは分かっているので、
「あがらせてもらいますよ」
と言いながら靴を脱いで上がり込みました。
居間のドアを開けると、
やはりテレビがついていました。
けれども、部屋には誰もいません。
念のためトイレ兼シャワーも
音を確認してから開けてみましたが、
誰もいません。
さすがに気味が悪くなってきたのですが、
開き直って押入まで確認しました。
結局、人がいないので
あきらめて帰ることにしました。
無人の家なので、
余計なこととは思いましたがテレビは消しました。
鍵はかけられないのでそのままです。
玄関を出てドアを閉めて
エレベータへ向かいかけたのですが、
気が変わって引き返しました。
最後の確認のため、ドアを引いてみました。
が、鍵がかかっていました。
ホテルのドアと同じようなものでしょうか。
誰もいないのは分かっていましたが、
ついチャイムを押してみました。
がちゃり。
音がして、ドアが開き始めました。
今度はすかさずドアをつかんで自分で開きました。
しかし、そこには誰もいませんでした。
全身に鳥肌が立ち、猛烈な寒気に襲われ、
階段を駆け下りてマンションから飛び出しました。
店長に今までの出来事を話しましたが、
勝手に家に上がるなと怒られただけでした。
それから他のバイトがその家に行ってみたようですが、
最初から何の応答もなかったそうです。
仕方がないのでその家への新聞の配達は止めて、
あとは店長に措置を任せました。
問題の部屋はすぐに空き部屋になったようですが、
その後ずっと人が入ることはありませんでした。