コレチョ
2019/05/17
何年か前に画商をしていました。
全国の百貨店を催事で渡り歩くやつ。
そこで扱っていた、
ある一枚の作品にまつわる話です。
はじめに、絵画は値の張る非日用品などで、
そう簡単には売れません。
通常何十分、何時間、
時には数日がかりでお客様を口説きます。
件の絵は珍しく入荷した途端コレチョ
(ほとんど接客せず、コレちょーだい!でお買い上げ)
で契約が決まりました。
喜んだのも束の間、翌日にキャンセル。
理由を伺うと、身内に急な不幸が起きたため、
余計な出費ができなくなったとのこと。
それじゃ残念だけど仕方がない…ということで、
その絵は展示場に戻りました。
が、その日のうちに再びコレチョ。
お客様の手元に届いた日にキャンセル。
奥様が独断で高額の買い物したため、
怒ったご主人に離婚を言い渡され、泣く泣く返品。
以後もその絵はコレチョ→家庭に不幸が起こりキャンセルを繰り返し、
さすがに験が悪いということで、倉庫行きになりました。
あの絵には何かいわくでもあったのでしょうか…
退職してしまった今となっては、
あの絵がどうなったのかもわかりません。
不思議なことがもうひとつ。
その絵の作家や額装、サイズ、展示した場所は覚えているのに、
どんな絵であったのかが思い出せないんです。
まあ、嫌な記憶に蓋をしているだけなのかもしれませんが…