酒の神様
2019/05/14
去年の今頃結婚して、
彼女の実家の近くのアパートに住んでいる。
市内にある俺の実家から離れた郡部で、
町の真ん中に一本国道が通っている。
その道を境に川側と山側に分かれるとして、
俺の家と彼女の実家は川側にあるので、
近所の事は散歩等で詳しくなったが、
国道を超えて町の山側には行った事が無い。
山側には鮎のヤナなんかがあって観光地らしいが、未だに行ってない。
これは今年2月頃体験した不可解な出来事。
会社は市内にあって、
家に帰るまで早くて40分くらい掛かる。
会社は昼から始まり、夜9時まで仕事。
詳しくは書かないが締め切りのある仕事で、締め切り前になると、
午前2時とか3時くらいまで残業する事もある。
途中、川沿いの道を延々進むんだけど、ある日霧が濃い日があった。
その日は金曜で翌日が休みなので、1時くらいまで仕事をしていた。
霧はそれまで何度か経験していたけど、
その日ほど濃い霧は初めてだった。
「ありゃ、こんなスピードで走ってたら、何時に帰れる事やら・・・」
と独り言が出るくらい、時速14~15キロくらいのスピードで、
僅かに見える中央線を頼りに、トロトロと進んでいた。
まわりに他車のライトは見えない。
途中、明るい○○橋のオレンジ色の光を過ぎた。
もう少し行けば左にカーブして町中に入れる。
そうすれば、霧も薄まり、
コンビニや夜間も点灯してるパチンコ屋の光で、
走りやすくなるだろう。
と考えてた瞬間。
ガッ!と何かに乗り上げた感触。
しまった。
路側帯に乗り上げたか?
慌ててブレーキを踏むとザザーッと、
砂利道でブレーキを踏んだ感触。
何が起こったか分からず、回りをキョロキョロと見回す。
が、回りは濃い霧に包まれてるだけ。
懐中電灯を持って車を降りると、信じられない光景。
今まで走っていた道路じゃない。
つーか、この足下は道路ですら無い。
砂利と石畳になってる。
どこだ、ここは?
状況を確認すると、どうやらどこかの神社みたいだ。
懐中電灯で鳥居を照らして、○○神社と読める。
「今○○神社ってトコに居るんだけど・・・」
と、嫁に電話してみた。
「なんでそんなところにいるの?」
よかった。
嫁の知ってる場所らしい。
「道に迷って帰れないので、迎えにきて欲しい」
とだけ伝えると、二・三言話しをして、
どうやらココが、前述の山側にあるらしい事が分かった。
鳥居の石段のところに腰掛け、嫁を待つ。
霧が少し晴れてきたが真っ暗。
遠くにコンビニやパチ屋の看板の光が見える。
位置関係から、一瞬で町中をすっ飛ばして、
山側のこの神社に来てしまったらしい。
暫くして、石段の下のところに車のライトが見えた。
俺の車のライトと、懐中電灯の光に気付いたっぽい。
人影が懐中電灯を持って、石段を上ってくるようだ。
多分嫁だろう。
俺も石段を下りる。
石段は100段くらいの道のりで、
途中嫁と合流して一緒に自分の車まで戻った。
嫁と二人で境内を確認する。
神社の規模から間違いなく、車の通れる道があると考えたからだ。
一応道は見つかったが、鉄扉に南京錠が掛かっており、
車で降りる事はできない。
翌日は休みなので、仕方なく車を邪魔にならない場所に移動して、
階段を下り嫁の車で帰った。
途中、嫁から根掘り葉掘り聞かれたが、
仕事の疲れもあり、
本当に分からないのは自分だからと簡単に伝え、家に帰った。
翌朝、町会議員をしている義父から神社の神主に電話してもらい、
鉄扉を開けてもらうように頼んだ。
神社に行くと、スエット姿の神主が
「いやーすいません、夕べは大変だったでしょう?」
と挨拶された。
挨拶を返しながら、謝るのは神主にわざわざ来てもらった俺の方なのに、
と疑問を感じ、神主と話をしてみた。
「こんなことあるんですか?」
との俺の問いに、同じ状況が過去に二・三度あったらしい。
その神社は酒の神様で、酔っぱらった人を呼びつけるらしく、
車は滅多に無いが、酔っぱらった人が迷い込む事はよくあるそうだ。
いや、俺は酔っぱらってなかったし・・・と思ってたら、
「車に酒を積んでませんか?」
と聞かれた。
そう言えば、年末に配ってたお歳暮用のビールと清酒の余りが、
載せっぱなしになってた。
俺は酒を飲まないから、下ろす事もしなかったし・・・
「神通力ってなのかな?ウチの神さんは霊験灼かなようで・・・」
と、どうしようもない話で無理矢理まとめられたw
帰り際、神主に挨拶がてら載せっぱなしの酒類を神主に渡し、奉納してもらった。