新聞の集金
2019/05/11
集金に行ったその家は、
オートロックタイプのワンルームマンションでした。
玄関ホールから呼び出しチャイムを鳴らしました。
鳴らしてしばらく経って、
『・・・はい』
と男の人の声がしました。
寝起きなのか、
ひどくテンションの低い声でした。
集金に来たことを告げたら、
黙ってオートロックのドアが開きました。
エレベータで目的の部屋へ行き、
玄関のチャイムを押しました。
チャイムの後にちょっと間があって、
かちゃりと鍵を開く音がしてドアが少しだけ開きました。
が、いくら待っても人が出てきません。
仕方ないのでドアを引いてみました。
やっぱり玄関には誰もいません。
「すいませーん。○○新聞ですー」
声をかけましたが、反応がありません。
何度声をかけてもチャイムを鳴らしても、
反応がありません。
奥の部屋からはテレビの音が聞こえています。
人がいるのは分かっているので、
「あがらせてもらいますよ」
と言いながら靴を脱いで上がり込みました。
居間のドアを開けると、
やはりテレビがついていました。
けれども、部屋には誰もいません。
念のためトイレ兼シャワーも
音を確認してから開けてみましたが、誰もいません。
さすがに気味が悪くなってきたのですが、
開き直って押入まで確認しました。
結局、人がいないのであきらめて帰ることにしました。
無人の家なので、
余計なこととは思いましたがテレビは消しました。
鍵はかけられないのでそのままです。
玄関を出てドアを閉めて
エレベータへ向かいかけたのですが、
気が変わって引き返しました。
最後の確認のため、ドアを引いてみました。
が、鍵がかかっていました。
ホテルのドアと同じようなものでしょうか。
誰もいないのは分かっていましたが、
ついチャイムを押してみました。
がちゃり。
音がして、ドアが開き始めました。
今度はすかさずドアをつかんで自分で開きました。
しかし、そこには誰もいませんでした。
全身に鳥肌が立ち、猛烈な寒気に襲われ、
階段を駆け下りてマンションから飛び出しました。
店長に今までの出来事を話しましたが、
勝手に家に上がるなと怒られただけでした。
それから他のバイトがその家に行ってみたようですが、
最初から何の応答もなかったそうです。
仕方がないのでその家への新聞の配達は止めて、
あとは店長に措置を任せました。
問題の部屋はすぐに空き部屋になったようですが、
その後ずっと人が入ることはありませんでした。