信号待ち
2019/05/10
これは先週の日曜日の、昼間の話です。
ちょっとした用事があり、
自宅から1時間程離れた埼玉県の川越市に、
バイクで出掛けました。
風も無く、とても良い天気でしたので、
気分よく走ることができました。
ところが、目的地に着く間近で、ちょっと道に迷ってしまったのです。
まあ、道に迷ったと言っても市街地ですし、
大まかな土地鑑はありましたので、
適当に走っていれば近くに行けるだろうと、
のんびり走っていました。
10分程走った所、狭い道(車がぎりぎりすれ違える位)に出ました。
道が狭いのですが、割と交通量があり、
ちょうど地元の人が使う抜け道のようです。
その道の途中で赤信号に引っかかりました。
信号待ちの車の列は約10台。
すり抜けて列の先頭に出るには道幅が狭く、
私のバイクは列の最後尾で停止しました。
停止車両の列の中程、
5台目付近に佐川急便のトラックがいました。
今から思うと不思議なのですが、
そのトラックが目に入った時、一瞬、嫌な胸騒ぎがしました。
信号が青に変わり、先頭の車から順々に発進して行きます。
青信号の間隔が短そうだったので、
もう一回信号待ちかなと思いつつ、
前の車が発進するのを待っていました。
その時、おかしなことが起こりました。
佐川急便のトラックが、
前の車が発進したにもかかわらず全く動かないのです。
はじめは、ぼーっとしてるな位に思っていましたが、
1分、2分たっても動きません。
今から思うと不思議なのですが、
後ろで待っている車もクラクションひとつ鳴らさず、
おとなしく待っているのです。
とうとう前方の信号がまた赤になってしまいました。
佐川急便のトラックの前には、自動車4台分のスペースが空いたままです。
もしかしてあのトラックのドライバーは、車をあそこに止めて、
何処かに荷物を届けに行ってるのかも知れない。
それに、いつまでもここで待っている訳にも行かないし。
そう思った私は、対向車が来ないことを確認し、
対向車線にはみ出しながら車の列を抜きにかかりました。
たいした距離でもないので、ゆっくりと一台ずつ抜いていきます。
一番最後に、問題の佐川急便のトラックの所にさしかかりました。
気になったので、トラックの運転席をひょいと覗き込みました。
「うわーっ!!」
思わず叫んでいました。
その時私の姿を見たら、バイクに乗ったまま20センチ位、
本当にのけぞっていたと思います。
「死んでる・・・」
無人と思っていたトラックの運転席に、ドライバーはいたのです。
両手をハンドルとダッシュボードに投げ出し、上半身を突っ伏していました。
顔はハンドルにもたれたまま、私の方を向いています。
詳しく調べた訳でもないのに、
死んでいると思ったのは無理もありません。
顔面は真っ白で、両目とも白目をむいてます。
口は開いたまま、舌がはみ出していました。
目に見える血液や外傷はなかったので、
ちょうど今、心臓発作で死んでしまったように見えます。
日曜日の真昼間に、まさかこんな光景を見るとは夢にも思わなかったので、
0.5秒位、本当に頭の中が真っ白になりました。
とはいうものの、何とか自分を取り戻し、ようやく回り始めた頭で考えました。
心臓発作かなんかかな。こういうことってあるんだな。
とにかく後ろの車のドライバーに知らせて、
救急車とパトカーを呼ばないと。
とにかくトラックの前に出て、バイクを路肩に止めました。
改めて後ろを振り返った時、
「えっ・・・」
私は、自分の気が変になったのではと、本気で思いました。
佐川急便のトラックが、何事もなかったかのように動き始めているのです。
フロントガラス越しに見えるドライバーは、
先程のドライバーと同一人物ですが、
表情はいたって普通の元気なお兄ちゃんなのです。
呆然とバイクの脇に立ち尽くす私の横を、
佐川急便のトラックを先頭に、
これまで止まっていた車が次々と走り去っていきます。
以上でこの話は終わりです。
これは一体何だったのでしょうか?
こちらを向いている凄絶な死顔が、
今でも頭から離れないのです。