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夏の暑い昼下がり

2019/05/06

私の父がまだ子供だった時分の話ですので、今から60年以上昔のことになります。
当時、長崎県S市に住んでいた父は、家族に頼まれて回覧板をお隣に出しに行きました。
季節は夏、暑い昼下がりで、家の中から外に出るとぼうっと頭がかすんだほどだったそうです。
通りに出ると、ふいに背後から声をかけられました。
「おい、○○」
名前を呼ばれた父が振り向くと、少し離れたところに同級生のA君が立っていました。
父はそのA君とはそれほど親しくもなく、ほとんど話をしたこともなかったので、
何の用かと不審に思いながらも、
「なんだAか。どうしたんだ?」
と訊ねると、
「ちょっと俺と一緒に来てくれないか」
と答えるのです。
「今、回覧板を隣に出しに行くところだから、ちょっと待っててよ」
「そんなのあとでいいから、早く来いよ」
「そうはいかないよ。すぐに済むから」
などどと言いながら、父はA君の姿を見やりました。
父の家の前の通りは長い坂道になっていて、A君は坂道の上手側に立っていました。
そのため、何となくA君を見上げるような姿勢になってしまったそうですが、
そのA君を見ると、ランニングシャツを着て、白い半ズボンに高下駄という格好だったそうです。
A君はしきりに父を誘いましたが、そのわりには父のそばに来ようとせず、
少し離れたところに立っているばかりでした。
父は
「じゃ、急いでお隣に出してくるから!」
と返事をして、
ソッコーでお隣の玄関先に回覧板を回し、また通りに戻ってきたところ、
さっきまでいたはずのA君がどこにも見えません。
前にも書いたとおり、通りは長い坂道になっていますので、
あきらめて行ってしまったとしても、その姿は見えるはずなのに。
首をひねりながら家に戻ると、父の両親が話をしていました。
「かわいそうに。それじゃ、まだいっぺんも意識が戻らないんだね」
「○○病院に入院したらしいけど、多分もう助からないだろうねえ」
何の話かと聞くと、A君が2日ほど前に車にはねられて頭を打ち、
ずっと入院中らしいことを知らされました。
つい今しがた知り合いの人から電話があったとのことで、
今のように連絡網もない時代、夏休み中で学校もなかったために、
父もようやくこの日初めて知るところになりました。
結局、それから3日ほどしてA君は亡くなったそうです。
父が見たA君は、父をどこに連れていこうとしていたのでしょうか?
さほど仲がよくなかったというのに、なぜ父に声をかけたのでしょうか?
そんなことを考えると、なんとなく薄気味の悪さを感じます。
さて、この話には後日談があります。
A君の家族は、そのころ父の家から15分ほど離れたところに住んでいたそうですが、
A君の葬儀のあとほどなくして、あたらしく中古住宅を買って引っ越していきました。
それまでは長屋みたいな狭い家に住んでいたそうですが、
あたらしい家は広くりっぱなものだったそうです。
父のお父さん(私の祖父)が一度、菓子折持参で挨拶に行ったところ、
S駅のそばの高台の一等地にあり、見晴らしもよくとてもいい家だったらしいです。
ところが、その家に越してから、何故かA君一家は次々と葬式を出すことになりました。
A君はすでに亡くなってしまっているわけですが、
A君の3歳違いの弟は、遊んでいる最中、家のへいの上から落ちて頭を打って亡くなりました。
A君のお母さんは精神的な病にかかり、台所のガス台で自分の頭部を燃やして自害しました。
A君のお兄さんは(何の病気か不明ですが)重い病気にかかり、闘病の末に亡くなりました。
ただひとり、A君のお父さんだけは何事もありませんでしたが、
父の近所の人たちは、
「あの家に越したから、こんなことになったんだ」
「あの家にいる限りは、多分おやじさんも死ぬだろう」
などと噂していました。
その後、A君のお父さんはとうとう家を捨ててしまい、以来行方知れずだそうです。
何年か経ってから、父が祖父と一緒に見に行ってみると、
草ぼうぼうに荒れ果てた廃屋が、一軒ぽつんと残っているだけだったといいます。
父はもう70歳を超えていますが、
「今でも夏が来るたび、あのときのA君の声や履いていた高下駄を、何故か思い出してしまうんだよなぁ」
と言って静かに笑います。
生真面目で冗談ひとつ言わないような父ですが、
この話はよほど印象的だったのか、よく繰り返し私に話して聞かせてくれました。

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