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存在感

2019/04/30

平日の午前中、都内の地下鉄に乗車していたときのことです。
車内はかなり空いていて、歯の抜けた櫛のように空席があり、
立っている乗客はオレを含めて3~4人ほど。
扉の横のスペースに立ってボーッとしていたところ、
とある駅を発車した瞬間、妙な違和感にとらわれました。
その原因は、オレと扉を挟んで1mほど前に立っている二人の男性でした。
ひとりは扉横の手すりを左手でつかんで扉と平行に立ち、
窓に顔を向けている推定年齢50代の男性です。
この男性はオレと同じ駅で乗り込んだので、よく覚えています。
8割がた白髪の短髪で、黒セル眼鏡に無精髭、
黒のジャケットによく洗いこまれたジーンズ、
スニーカーはおそらくリーボックのポンプフューリーと、
かなり若めのコーディネートです。
この男性の背後に、直前の駅で乗り込んできた
スーツ姿の若いサラリーマンが立っていました。
片手で器用に英単語帳のようなものをくくり、片手は吊革を握っています。
で、違和感の原因。
二人の距離感が極めて不自然なのです。
ものすごく、近い。
不謹慎なたとえでいうと、痴漢ってこういう距離でするんじゃないか、
というような距離。
若いサラリーマンが痴漢役で、お洒落な50代男性が被害者役です。
もう少しで股間が触れますよ、という勢いなのです。
もしやマニア向け、男同士の痴漢ビデオの隠し撮りが行われているのか?
とすら考えて、思わず車内を見回しましたけれど、
もちろんそれらしい気配はありません。
なにより、背後から近づかれている50代男性が、
その距離感を明らかに訝しがり始めたではありませんか。
でも幸いにして、ほどなく停車した駅で、
若いサラリーマンは下車していきました。
50代男性はホッとした様子…もつかの間。
こんどは大きなディパックを背負い、
ニンテンドーDSに夢中になっている若い男が乗り込んできて、
また50代男性の背後すれすれに立ったんですよね。
繰り返しますけど、車内はぜんぜん空いているんですよ?
何もそんなに近づく道理もありません。
再び訝しがる50代男性。
今度はすぐさま咳払いなどして、
「近すぎるよ!」
のアピールをしていましたが、
背後の男性の耳にはニンテンドーDSから伸びるイヤホンが挿さっているせいで、
思いは通じませんでした。
自分からどけばいいのに、とも思いますが、
なんとなく『負け』を認めてしまうようで嫌だったのかもしれません。
(その気持ち、わかります)
オレは次の停車駅で下車しましたが、そのときもまだ距離は近いままでした。
たった数分で、若い男を二人も引き寄せてしまった50代男性には、
なにか特別なオーラでもあったんでしょうかね。

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