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トンネルの向こう側

2019/04/22

トンネルで不思議なできごとに出遭った。
そんな話をよく聞くのだが、実は私にもそんな経験がある。
この時期になると思い出すのだ。
ちょうど冬休みに入った日のこと。
小六だった。
そのトンネルは高速道路の下をまっすぐ横切る、細くて短いトンネルだった。
左右一車線ずつ、片側にしか歩行者用の区切りがない、そんなところだった。
今はアスファルト舗装されているが、この当時はまだ舗装もされていなかった。
場所は伏せた方がいいと思うので書かないが、ある県の農村部とだけ申し上げておく。
とにかく田舎のトンネルだ。
その日、私は友人宅に行くためにそのトンネルを通った。
まだ午後の一時過ぎだった。
子供の足でも数十秒で通りぬけられるくらいの短いトンネル。
むこう側の出口がトンネルの外からだって見える、そんなトンネルに入った途端だった。
目の前が急に真っ暗になった。見えるはずの向こう側が見えない。
なにが起きたのかわからなかったが、とにかくおかしいぞと思った。
それで、とにかく一度外に出ようと振り向いたら、そこにはあるはずがない壁が。
ちょうどトンネルの横壁と同じようなコンクリートの壁があった。
入ったばかりの入り口が壁で全部塞がっていた。
怖くなり、外に出ようとトンネルの反対側出口に向かって走ったが、
いくら走っても外に出なかった。
先にも書いたが、そもそも出口が見えない。
いつもならあっという間に出られるはずなのに。
そこでもう一度反対に戻ると、やはり壁に突き当たって出られなかった。
ちょうどながーい袋小路に押し込められたような感じだった。
当然パニックを起こして、「うわー」とか、「おおー」とか叫んでいたと思う。
壁も叩いたり蹴ったりした。
しかし、壁に変化などあろうはずもなかった。
しかたなく、もう一度向こうに出ようと歩き始めた。
依然として出口は見えないままだったが、
しばらくして妙な音がしているのに気づいた。
横壁の向こうから車の走る音がしていた。
普通に道路を歩いている時にしている車の音。
舗装していない道を走るジャリジャリという音。
そのときにわかった。
『壁の向こう側にほんとのトンネルがあるんだ』って。
じゃあ今いるここは?と考えても答えは出なかったが、(
というよりもいまだに答えが出ない)
とにかく、ここはあのトンネルではない。
それだけは確かのようだった。
そこで、横壁をさわりながら前に進んでいった。
横壁のどこかからトンネルに帰るのではないかと思ったのだ。
聞こえるからには繋がっているところがある。
そう思うしかなかった。
ちょうどパントマイムでよくやってる『壁』って奴。
あれのような恰好で壁を触りながら進んでいったら、
突然、ほんとうに突然明るいところに出た。
あたりを見ると、20mくらい後ろにトンネルの入り口が見えた。
道端に立っていた。
いつもの見慣れた場所。
『こちら』に戻ってきたらしかった。
戻ることのできた理由はわからない。
このあと急いで友人宅へ行き、これこれこうだと説明したのだが、当然信じてもらえなかった。
無理やりトンネルまで連れてきたが、変わったところはなく、
「嘘ばっかりいってるんじゃない」と言いながらトンネルに入っていった友人も、
なんのこともなくトンネルを通りぬけて、また普通に戻ってきた。
話はこれだけですが、ひとつだけ、今でもどうなっただろうと思うことがある。
あの時私は、ひとつしかない歩行者用の区切りに沿って中に入り、
そのあともこの区切りの中で、奥にいったり戻ったり、壁を触ったりしていた。
もし、あそこで区切りの向こう側、つまり奥に向かってではなく、
車道にむかって横にずっと歩いていたら、
むこうはどうなっていたのか、それがわからないのだ。
壁があったのか、空間が続いていたのか。

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