古本屋
2019/04/23
俺は小学生の時(から高校までずっと)、
遠くの私立の学校に電車で通ってたので、
地元に友達って一人もいなかったのよ。
んで、両親は共働きだったんで、
毎日親が帰ってくるまで俺は家で一人で遊んでたんだ。
つっても、一人で遊べるようなおもちゃなんてほとんど持ってなかったし、
何してたかっつうと、ずうっとマンガ読んでたのね。
うちの親はファミコン禁止にしてたくらいで、
マンガもほとんど買ってはくれなかった。
だけど、月の小遣いに500円と、
あと小1の頃から片道1時間超かけて通学してたから、
途中でのど渇いたらジュース買っていいってことで、毎日100円もらってたのよ。
そのお金で、マンガを買いまくってたわけだ。
でも、それだと月3000円くらいじゃない。
10冊も買えないんだよね。
もう、あっという間に読み終えちゃう。
だからいっつも、もっとマンガ買いたい、
もっと読みたいって思ってた。
で、小4くらいだったかな。
ある時、どうも世の中には古本屋というものがあって、
そこではマンガが安く買えるということを知って。
しかもちょうどよく、駅から家までの途中に古本屋があったのよ。
初めてそこに恐る恐る入った時には驚いたね。
だって、色んなマンガが100円かそれ以下で売ってるんだよ。
もうそれ以来、毎日100円を握り締めて
その店に通うようになったとも。
でもさ、所詮その店は町の古本屋さんなわけで、
在庫なんかたかが知れてるさね。
もちろんたまに入荷はあるんだけど、
毎日1冊買ってりゃそりゃあそのうち買うものもなくなるわ。
全然面白くなさそうなのでも、
無理矢理買ったりして誤魔化してたんだけど、
(小学生で『実験人形ダミー・オスカー』とか買う俺も俺だが、売る店主も店主だ)
やっぱり、だんだん物足りなくなってっちゃったのよ。
そんなわけで、その店に飽き足らなくなった俺がどうしたかと言うと、
新たな古本屋を探し始めたわけです。
当時住んでたとこは、まあ田舎ってわけでもなし、
自転車で遠出すれば簡単に別の町に行けたからね。
で結果的に、意外にけっこう近く、
自転車で15分くらいのとこに別の古本屋を見つけたわけですよ。
それが家を出て左の道を進んでったところで、
駅とは反対の方向だから、
子供の頃から全く行ったことがなかったとこにあったんだ。
なんか小さなショッピングモール?っていうの、
ひとつの建物の中に4~5軒、
おもちゃ屋とか駄菓子屋とか肉屋とか入ってる建物があって、
道をはさんでその向かいに、って説明しても意味ないけどさ、
まあそれくらいはっきり、道順も風景も覚えてるってこと。
その店にはもう感動したよ。
今まで見たこともないような、
でもものすごく面白そうなマンガがずらりと並んでてさ。
まあでも、やっぱり買えるのは1冊か2冊だから、
一生懸命選んで選んで買って、
ほくほくしながら帰って読んだら、予想通り本当に面白いし。
ただ、その店にはそんなにしょっちゅうは行かなかったんだよね。
せいぜい何度かってくらい。
っていうのも、その店は小さいんだけど品揃えがすごいから、
いつ行っても、あれも欲しいこれも欲しいってなっちゃって、
結局買えないのが辛くてたまらないから、ってのもあった。
でも正直なところ、どうしてそんなに行かなかったのかは覚えてないんだよね。
今になってみると、行かなかったんじゃなくて、
行けなかったのかもしれない、って思うんだけど。
まあとにかくそんな風に、
古本屋に通ってはマンガを買ってた小学生時代だったんだけど、
中学に入ってからは、部活が忙しくて帰りが遅くなったりとか色々な理由で、
あんまり古本屋に行かなくなったんですよ。
駅からの途中にある最初の店は、
それでもそれなりに寄ったりしてたんだけど、
二番目の店は、ちょっと出なきゃいけないってのも面倒だったし。
んで高校になって、今も住んでるところに引っ越したわけです。
不思議なのはここから。
高校になって受験勉強とかしてる時って、
やっぱまあ色々辛いので、小学生時代を懐かしんだりするよね?
で、思い出されるのは、何故かいつも二番目の店だったわけだ。
しまいには夢にまで見るようになってさ。
それでとうとう、何年かぶりにあの店に行ってみよう、と思ったわけ。
駅から、ほんの数年前まで毎日通ってた道を、
懐かしんだりしながら家まで歩いて、そこからあの店まで、
歩きだと30分くらいかな?
ここをこう行って、ここで曲がって、
そうそうここの家がでかい犬を飼ってて――
で、はたと立ち止まってしまったのよ。
(なんかもう想像ついてるだろうけど)
あの店が、というより、あの店まで行く道がない。
あとひとつ角を曲がれば、
あのモール?の建物と向かいの古本屋があるはずなのに。
もう何度も確かめたよ。
少し先まで行って曲がってみたり、いったん戻って行き直してみたり。
それでも、そこで曲がるはずの角がどうしても見つからない。
というか、T字路だったはずなのに、
右の棒の部分の道がなくて逆L字になってるんだよね。
その日は夕方だったから間違えたのかも、
と思って、次の日曜に行ってみたりしたけど、
やっぱりどうしても曲がり角は見つからなかった。
そんで、ふと気づいたんですよ。
俺は前述の通り、マンガに対する執着がものすごく強かったから、
引越しの時もマンガは1冊も売ったり捨てたりしてないのね。
しかも、そのどれも何度も何度も読んでるから、全部完璧に覚えてるのよ。
なのに、あの店で買ったマンガがどれだったか、全く思い出せない。
あんなに面白い面白いって読んだはずなのに、
どんなマンガだったのかさっぱり覚えてないんだ。
なんかそれに気づいてからは、
無理に探したりしない方がいいのかも、とか思うようになった。
よくわからないけど、そっとしといた方がいいものなのかなって。
ちなみに、社会人になった今でも、
辛いことがあるとあの古本屋の夢を見るんだよね。
高校の時からずっと同じ内容なんだけど、
家の前から左の方に記憶どおりに進んでいくと、簡単にあの店まで行けるのよ。
変わらず小さいけど、良い品揃えで、面白そうなマンガばっかりで。
で、小学生の時よりはるかに金持ってるから、
大人買いしようとするんだけど、
何故かいつもどうしても買えないんだよね。
急に人がいっぱい店に入ってきて押し出されちゃったり、
逆にレジにも誰もいなくて何度呼んでも出てきてくれなかったり。
そのうちに、あ~あ、そろそろ帰らなくちゃな、
って気がして、目が覚めるんだ。
いつになったら買えるのか、自分でも楽しみにしてるんだけどね。