しっかり者の祖母
2019/04/21
友人の話。
実家の祖母が急死した。
慌てて帰郷し、何とか通夜には間に合った。
一息つく間もなく、
翌日の葬儀の準備を手伝わされたという。
葬儀社との打ち合わせを終え、
湯呑みを掻き集めていた母の手伝いに向かう。
先に話した折、
湯呑みの数が足らないと頭を抱えていたからだ。
「お母さーん・・・ってあれ?」
意外にも、母はきちんと湯呑みを揃えていた。
食堂の大机の上に、
柄の揃った湯呑みが丁寧に並べられている。
なぜか母はその前で、
呆けたように座っていた。
「よくこれだけ同じ柄の物を集められたね」
労って声を掛けると、
母は首をふるふると振った。
「お義母さんがね、お義母さんがね、蔵から出してくれたの」
何を言っているのか、
まったくわからない。
母がお義母さんと呼んでいたのは
死んだ祖母だけだ。
祖母は今、通夜が開かれた広間で
そのまま安置されている。
「湯呑みが足りなくてね、
お隣さんから借り集めようかと思案していたら、
ガラッと戸が開いて、お義母さんが、
お義母さんが入ってきたの。
びっくりして声を掛けたのだけど、
何の反応もなくて、奥の方へスーッと。
貴女たちは打ち合わせでいなかったから、
慌てて私一人で追いかけたのね。
そうしたらお義母さん、
蔵に入って隅の方から箱を引っ張り出したの。
中をあらためると、この揃いの湯呑みがね、入っていたの」
「・・・お祖母ちゃんは?」
「箱の中身を調べている内にね、
いつの間にかいなくなっちゃったの」
遺体の様子を見に行くから
一緒に広間に行ってくれないか、
そう母は頼んできた。
二人して恐る恐る、
広間に足を踏み入れた。
何もおかしいところはなかった。
ただ、閉められていた筈のお棺の蓋が、
半分ほど開いていた。
「自分の葬儀の準備まで手伝っていくなんて、
しっかり者のお袋らしいや」
父は平然とそう述べただけだった。
葬儀は何事もなくしめやかに行われた。
祖母が棺から起き上がるのではないかと、
彼女は葬儀の間中ドキドキしていたが、
そのようなことはなかった。
少しホッとして、そして同時に、
少し寂しかったという。