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しるし

2019/04/08

俺が今の仕事をする前、工事現場で仕事をやってた頃の話。
なお、書くことは全て実話。
その頃いた会社は俗に言う中小零細企業ってやつで、
俺含めて社長以下4人で回していた小さいどころだった。
そんな会社は自分で仕事を取ってくるだけじゃ回らないから、
大きい会社の下に所属してデカい仕事を貰ってくる。
当時知り合ったMさんという人は、
親会社から工事現場の担当で配属されてきた人だった。
見た目、とんでもなくゴツい。
身長は180に足らずってくらいで、
作業着を脱いだら、その下にある筋肉がTシャツを押し上げているのが
ありありと見て取れるくらい、鍛え上げられてた。
あ、別にウホッとかそういう話じゃないからね。
親会社から現場管理で来ていたMさんは、
いつも仕事からあがるのは俺らよりも遅かった。
まぁ現場管理なんかやってるわけだから、
作業が終わった後の進捗管理やら何やらで、
残らざるを得なかったわけで当然なんだけど。
そんなMさんと、ちょっと飲みに行こうかと社長、いや親方が言い、
面白そうだから俺も行こうかと、一緒に更衣室に行った。
よくニッカボッカで街を闊歩している人がいるけど、
デカい現場だと車での通勤が難しいから、電車通勤のために更衣室があるのね。
そしたらMさん、さっさと着替え終わった俺に向かってこう言った。
「すまないんだけど、そこでジャケット広げて、
僕が外から見えないように目隠しになってくれない?」
「別に構わないですけど、何でですか」
って聞く俺。
そしたらMさんこう答えた。
「いや、僕の身体、入れ墨だらけだからさぁ」
「えーっと、つまり元893屋さんですか?マジっすか」
と普通は思うが、それもちょっと違うらしい。
「違うんだよね、僕元軍人でさ。フランスに居たんだけど」
フランス外人部隊の元軍人さんだったそうです。
っていうか、元軍人が僕言うな。怖い。
しかし、俺もMGSやらでミリタリーにも興味があったオタ。
元軍人なんて聞かされてしまったら興味がわく。
ジャケットを広げつつ、Mさんの方を向いて入れ墨を見せてもらった。
まず目に付いたのが、背中に広がる鷲っぽい鳥のタトゥー。
何でも、Mさんがいた第二空挺師団とかいう部隊のマークだそうで、
こういう入れ墨を身体に入れることで、
戦場で死んだときでも(もし爆弾で身体がバラバラになった時でも)誰かわかるように、
というのが目的で入れるものらしい。
名前やらも入っているそうで、まぁドッグタグのようなものなんだろう。
しかし、それよりも気になったのが、
(記憶の中だと)左腕上腕部と左足の太股に縦に彫られていた梵語の入れ墨。
「それも部隊で入れたんですか」
と俺が聞くと、Mさんこう答えた。
「ああ、これは別件」
「別件って何ですか」
「軍隊に居た頃に、何人も人殺しちゃったわけでしょ?」
退役してからも、その人の断末魔の顔や、
はては暗い闇の中から腕や足を掴み、
引きずり込もうとする夢を毎晩見るらしい。
そんなことが続いて参ってしまったものだから、
日本に戻ってからお寺の住職に相談したところ、
引っ張られる腕と足に梵語の入れ墨を彫り、
お守りというかお祓いとしたのだそうな。
その日からそのような悪夢は見なくなったと言うが、
「気休めだよね。殺した事実には違いないし」

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