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イケメンで人当たりもいい後輩

2019/04/08

その後輩、
A君は去年うちの部署に配属されてきた。
年は20代後半、
イケメンで人当たりもいい、
いかにも好青年という感じ。
それまでいたところとは畑違いな部署に来たこともあり、
最初は手違いもあったけど、
努力家だし一度教えればそれで覚えてくれるので、
教育係だった俺はとてもありがたかった。
俺を含め大半は彼を認めていたし、
評価していたと思う。
気さくだけど礼儀正しく、
ユーモアもある彼は職場にもすぐ馴染んだ。
しかし、彼を良く思わなかった人がひとりだけいた。
その人を仮にBさんとする。
Bさんは30代半ばの男性で、
仕事は結構出来るんだけど、
人格に難ありというか、
よく人を貶めた物言いをする人だった。
短所は言うまでもなく責め、
長所まで言い方を変えて貶したりしていた。
痛烈に批判したり、
泣くまで追い詰めたりすることはない。
ちょっと嫌な気分になる程度のものだったので
大きな問題になったことはない。
みんな出来るだけBさんには関わらないようにする、
聞き流すという対応をしていた。
新しく加わったA君に仕事を教えたりするのは俺の役目だったので、
俺が意識的にそうしていたこともあり、
A君とBさんの接点は初めはあまりなかった。
今思うと、おそらくその頃からBさんは
A君を良く思っていなかったのだろう。
ある日、A君が資料を作成していたら、
そこにBさんがやってきて、
A君の仕事ぶりを観察し、そこに文句を付け始めた。
「その文おかしくない?
まあそれでA君がいいと思うんならいいけど。
あと、この形式じゃ見にくいと思うな。
プリントして配って誰が見るか、まで考えてるの?
あと、語彙が少ないよね~」
という感じで嫌味を言っているのを、
トイレから戻ってきた俺が止めた。
A君は俺が教えた通りにやっている。
今は草書の段階だ。
とフォローし、
Bさんは心配なさらず、
となんとか離れてもらった。
A君をいびりたくて、
俺がいなくなるのを狙ってたんだろうな、
と思うと少しげんなりした。
プライドが高いBさんは、有能で人好きのする、
しかもイケメンのA君を妬んいたのだろう。
もともと予想していたことだし、
だからこそお互いに近付けないようにしていたんだけど。
A君に大丈夫かと尋ねると、
「はい、僕は」
と困ったように笑った。
それから気になることが起こり始めた。
A君は全く問題なく仕事を覚え、
すっかり重要な戦力となりつつあった。
が、どういうことか、
それとは反対に、Bさんの作業能率が落ちていった。
Bさんのまとめた書類は
キレイで見やすいと評判だったのに、
改行がおかしい、敬語の間違いなど、
急に読み辛いものになった。
また、あえて難解な言葉を使いたがるBさんが
言葉を思い出せないということが増えた。
その時は訝しく思ったけど、
人間誰しも不調はあるだろうとそんなに気にしていなかった。
しかし、Bさんの不調は一向に治らなかった。
その頃から、ストレスもあってか、
Bさんの性格の悪いところが拡大され、
一層僻みっぽくなっていった。
特にA君に対する嫌味が酷い。
1人前に仕事をこなすようになったA君の、
それこそ重箱の隅をつつくような指摘をしたり、
果ては仕事とは関係のないことまで言い出す始末。
女性社員を誘惑してるんじゃないか、とか、
八方美人って実際は嫌われるわんだ、とか、
最早ただの言い掛かりでしかないものだった。
ここまで来ると、周りも注意していたが、
Bさんの態度は硬化するばかり。
また、A君への執着はますます増していった。
みんなのBさんへの不満も高まっていったが、
俺が一番気になったのは、
それと比例するかのように、
Bさんが何もかも上手くいかなくなっていることだった。
仕事は量も質も激しく落ち、
煙草の量が増えたのか血色も悪く、太ってきた。
今までBさんは誰のことも見下していたが、
仕事だけはきちんとこなしていたし、
こんなに疲弊しきったこともなかったので不思議だった。
そんな折り、A君と飲みに行くことになった。
仕事後に付き合ってくれないかと、
とA君に誘われたのだ。
A君と2人で飲むのは初めてではなかったが、
あまり明るい雰囲気ではなかったので、
愚痴や相談があるのだろうと思った俺は、
いつもよりちょっと良い飲み屋に連れて行った。
個室の座敷でぼちぼち食べて飲んでいると、
A君が言いにくそうに切り出した。
思った通り、Bさんのことだった。
でも、A君が語り始めたものは、
俺が思っていた内容とは少し違っていた。
「俺、ちょっと特異体質というか、
俺を嫌った人とか嫌がらせをしてくる人を不幸にしてしまうんです」
一瞬で、嘘だろ、まさかの電波?
と恐慌を来した俺だが、
そうではないらしく、
A君は自身のことを話してくれた。
彼が言うには、これまでにA君を苛めたり、
A君に害を与えた人は軒並み不幸になっているらしい。
例えば、A君を仲間外れにしようとして自分が孤立したり、
A君の足を引っ掛けて転ばせようとした子が骨折したり等。
その程度なら偶然の一致だよ、気にすんな、
と慰めると、自分も最初はそう思っていたが、
それで片付くレベルじゃないんだと言った。
なんでも、その人がA君にした・言った・しようと思ったことが
そのまま本人に返るのだそうだ。
いくつか例を聞いたが、
一番酷いのが、中学時代の話だ。
中学生の時、A君にはとても頭の良い同級生がいたが、
その子は数学の成績でA君を抜けないことをずっと悩んでいた。
そしてある日、
A君の数学のノートと教科書を机から盗み、
それを燃やしてしまった。
しかし、その子は根は真面目だったので、
A君が
「あれー?数学の教科書とノートがないなー」
と言っているのを見て、
すぐに白状して泣いて謝った。
A君はどちらも買うか写させてもらえばすむし、
気持ちもわかるからと許した。
しかし、その日、
教科書とノートを燃やした子の家が家事で全焼した。
ストーブの消し忘れだったとか。
幸いにも死人は出なかったが、
A君は自分の持つものをその時認識したそうだ。
これはA君の意思とは関係なく発動するもので、
相手がA君の好きな人や家族でも同じことが起こるらしい。
お祓いにも行ったが、効果はないし、
原因自体分からないとも言った。
だからA君は勉強も頑張り、
自分なりに気を遣い、人に嫌われないように、
不快感を与えないように努めてきたが、
Bさんのようにどうしても合わないような人と出会うことがある、と。
このことはまだ親にも言ったことがなく、
話したのは俺が初めてなのだそうだ。
マジかーと思いつつも、
Bさんのことは俺が何とかすると約束し、
特殊能力なんて漫画みたいでカッコいいじゃん!すげえ!飲め!
とべそをかくA君を無理矢理盛り上げて、
なんとか笑顔で帰すことが出来た。
俺もオカルトとか、
人知を超えた力のようなものはあると思っている。
A君もすごく気にしているし、
Bさんもこのままではよろしくない。
どうにか引き離さないと、
と考えながら、次の日出勤した。
その日もその日で、
やはりBさんはA君に絡んでいた。
もうそれしかやる事がないというように、
A君の一足一投に反応する。
俺は前日に聞いた話もあり、
いつも以上に気を遣って2人の距離を保とうとした。
仕方ない事なんだが、みんなA君の肩を持ち、
Bさんを冷たい目で見るようになっていた。
今までは周りから若干スルーされても、
逆に嘲笑っていたBさんだが、
さすがに同僚達の視線にピリピリしている。
そこで俺が間に入って仲裁しようとした時、
Bさんのがキレた。
「何なんだよ、お前ら!そうやってそいつの肩持つのかよ!
こいつがうちに来てからろくな事がない!
お前うぜえ、邪魔なんだよ!
お前が息してるだけでこっちはストレスなんだけど?!
わかる?自分がどんだけ迷惑かけてるか?!」
と、顔を真っ赤にしてみればまくし立てた。
周囲はその勢いに圧倒されて、口を噤んだ。
A君も俺も呆然としてしまった。
言うだけ言ったBさんは荒い鼻息のまま、
どすどすと部屋を出て行った。
しばらくの沈黙の後、誰かが
「何あれ。意味わかんない」
と言ったのを皮切りに、
Bさんないわーみたいな悪口と、
A君への慰めが始まった。
A君はまだ唖然としていた。
数分が経ち、騒ぎも収まると、
各々仕事に戻っていった。
俺は、
「僕は平気です」
とみんなに言いながらも不安げなA君を気にしていて、
Bさんのことを忘れていた。
そして、再びみんなが仕事に就き、
静かになった頃、Bさんの存在を思い出した。
おそらくトイレか喫煙コーナーだろうな、
と見当をつけていたが、そこで俺ははっとした。
まさかと思い、俺は慌てて部屋を飛び出し、Bさんを探した。
部屋を出てすぐにある喫煙コーナーにはいなかったので、
トイレに向かった。
男性用のトイレの扉を押し開けようとしたが、動かない。
足下を見ると人が倒れている。
Bさんだった。
それからは大変だった。
生まれて初めてAEDを使うわ、
救急車は呼ぶわ、と大騒ぎになった。
脳溢血でトイレで倒れ、時間にして3、4分。
ここ最近の喫煙量や
先程急に怒ったことが原因ではないかという話だった。
病院には上司が付き添い、
俺は仕事場のケア、もといA君のケアのために残った。
部屋に戻った時には既に知れ渡っていて、
騒然としていた。
その時点ではBさんの容態については何とも言えなかったが、
ざっと現状を説明し、とりあえず場は収まった。
問題はA君だが、
どう説明したってA君はショックを受ける。
俺が見つけた時、
Bさんは呼吸が止まっていた。
これは、激昂したBさんがA君に
『お前が息をしているだけで腹が立つ』
と言ったからだ。
偶然かもしれないし、
Bさんの不健康体からしたらおかしいことではない。
でも、事実がどうあれ、
A君はそう思うだろう。
俺がどう言おうか悩んでいると、
それでもう察したらしいA君が、
「すみません」
と小さな声で謝った。
A君のせいじゃない、しっかりしろ、
先輩らしく言ったものの、内心困惑しまくりだった。
結果として、最悪の事態は免れた。
Bさんは病院で一命を取りとめた、
と次の日上司が教えてくれた。
本当に良かった。
ただし、脳に障害が残り、
不自由な身体になってしまい、
もう職場復帰はせず、
Bさんはそのまま退職することになった。
みんなほっとしたり、
後味が悪い思いをしたりと様々な中、
A君はまだ死にそうな顔をしていたが、
ばんばん背中を叩いて、
Bさん助かってよかったなー!と声をかけると、
「はい」とようやく笑ってくれた。
俺はそう言いながらも、
もし、BさんがA君に
「死ね」と言ったらどうなっていたのか……と考え、
背筋を凍らせた。
A君が思い詰めてどうにかなったりしないかと、
無駄に構ったりいじったり、
飲みに誘ったりした甲斐があったのか、
今では気持ちも持ち直し、仕事に励んでいる。
余談だが、Bさんは奥さんの実家に越して、
リハビリがてらに畑仕事をしたりしながら楽しくやっているらしい。
簡単な近況報告と美味しい農産物が届いて、
職場のテンションが上がった。
ちなみに、宛先が俺宛で、
俺のマンションに届いたので、
それを持って会社に行くのはなかなか骨が折れた。
届いた時に何かと思い箱を開けたので、
職場宛の手紙とは別に一筆箋が入っているのを発見した。
そこには俺への感謝と、
A君への謝罪が一言ずつ書かれていた。
このことはA君にだけこっそり伝えた。
それを聞いたA君は、なんというか、
言い表せないような表情をしていた。
すごく嬉しそうだった。
Bさんが助かって本当に良かったと思う。
あと、今後、
A君が悲しい思いをしないように心から祈るよ。

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