木箱の中身
2019/03/11
これは先輩の友人が体験した話だ。
その友人にはまだ十代の妹がいた。
妹は高校中退した後、
ふとしたきっかけでホスト遊びにはまり、
ちょっとした借金ができたそうだ。
そしてお決まりのコースよろしく、
相手のホストから闇金を紹介され、
風俗勤めすることになった。
けれど彼女は三日ともたず、
切羽詰って家の金に手を出したという。
もともと実家は土建屋をやっていて、
バブルの頃は羽振りも良かったそうだが、
その頃には、かなり経営も行き詰っていたらしい。
金を使い込まれたことがきっかけになり、
親の会社は不渡りを出し、
ついには倒産したそうだ。
住んでいた土地も追われ、一家離散。
彼女は自分のしでかしたことを、
自殺することで償った、というか
逃げ出したのかもしれない。
妹思いだった兄は、
深い悲しみが激しい憤りへと変わり、
闇金を紹介したホストに復讐することを誓う。
ただ、失意の両親を
これ以上追い詰めるような真似だけはしたくない。
そこで先輩に相談したところ、
ちょっと怖い思いをさせてやるか、となったそうだ。
ある日の朝早く、
酔っ払って店を出るホストを待ち伏せして、
先輩ら三人でさらったそうだ。
車のトランクに押し込み、
連れて行ったのは山奥の廃墟になったモーテル。
荒れ果てた一室に、
手錠をかけたままのホストを監禁。
先輩の友人は、
あらかじめ準備していたものを取り出し、
ホストの前に置いた。
「この写真の女の子を覚えてるな」
それは亡くなった妹の遺影だった。
「○○はおまえに詫びてもらうまで成仏できないって、
夜な夜な枕元に立つんだ」
遺影の横に、白い布で包んだ木箱を並べる。
「一日かけて謝れ。
今夜枕元に出なかったら、迎えに来てやる」
この話がどこまで本当なのか、
先輩は分からなかったと言う。
ただ、喉の渇きを訴えるホストに、
その友人は自らペットボトルの水を与えたそうだ。
その姿は、本当に妹に詫びて欲しいように見えたらしい。
翌朝、明け方に三人で集合し、
再び山奥の廃墟へと。
みんなかなり緊張しながら、
部屋のドアを開けると、
・・・そこはもぬけの殻だった。
手錠は片方が洗面台の配管にかけられていて、
身体の自由はきかないはずだった。
それでも、玩具の手錠。
釘一本で簡単に開けられるのかもしれなかった。
財布や携帯は取り上げてあったが、
モーテルの目の前は旧道。
疎らとはいえ、地元の車の往来はある。
「逃げやがった」
先輩らは周りを探すのを諦め、
車に戻ることにした。
その友人は遺影を脇にして、
両手で木箱を持つと、声を上げた。
「えっ、何だこれ」
木箱の中に骨壷が入っているものだと、
先輩は思っていたそうだが、違ったそうだ。
「いや、ただの箱だよ。
納骨は終わってる。びびらせるつもりでさ」
友人が白い布をとくと、蓋つきの木箱が現れた。
「中身はからっぽのはずなんだけどな」
蓋を開けると、中身はいっぱいの黒土が。
「なんだこれ」
箱をひっくり返して土を落とすと、
拳大の塊が一つ出てきたそうだ。
先輩と友人が間近で確かめようとすると、
鼻を突く異臭がしたという。
傍らにあった木の枝でつつくと、
それはひからびたミイラのように見えた。
「これって胎児じゃねえーのか」
先輩と連れが顔を見合わせていると、
震える声で友人が言ったそうだ。
「妹はあいつを連れてったのかもしれない」
二人がぞっとして友人を見ると、
さらに言葉を続けた。
「遺書に書いてあった。
あいつと子供と、三人で暮らしたかったって」
後日、先輩が語ったのは、
多分、その友人がホストを殺したんじゃないかな、
とのことだった。
先輩も、その友人と連絡が取れなくなって、
数年たつという。