落ちている髪の毛
2019/03/10
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大学のサークルの友人Aが
引っ越しをするので手伝ってくれと言ってきた。
お礼に寿司をおごってくれるって言うのと
Aには世話になっている事もあって
俺は二つ返事で了解した。
引っ越し当日、現場には俺とA、
そして同じくサークルの友人のBとCの男4人で
引っ越し作業を片付けた。
Aの引っ越し先は2階建てアパートの1階の角部屋で、
玄関を入ると左に風呂、
トイレ(風呂とトイレは別々)で右にキッチン。
正面に木枠にガラスがはまってるドアがあって
10畳の部屋があるという間取りだった。
その日の夜は4人で酒を飲んで
寿司を食いながら適当にダベって
床にザコ寝して
次の日の朝にB、Cと一緒に電車で帰った。
その帰り道にCが
「Aの部屋ってすぐ隣の建物が神社だったよな、
もしかして・・・出るんじゃねーの」
とかふざけて言っていたのを覚えている。
まあ覚えいるっていうか
忘れられなくなったと言うのが正しいか・・・
Aが引っ越して一週間くらい経った頃、
学食でAとBと飯を食っている時に
BがAに
「新しい住まいはどーよ?
結構いい部屋だったよなー」
と聞いた。
するとAは
「うーん、まあ部屋は広いし駅も近いし悪くはないんだけど・・・」
と何か言いたげな感じで
言葉を濁したのが気になって、
俺は
「なに、なんか変な事でもあるんか?幽霊とか」
とか冗談めかして言ったんだよ。
そしたらAが
「いやー、なんか長い毛が良く落ちてるんだよね」
って言ってきたんで
「どうせ女でも連れ込んでんだろコノヤロー」
とか
「外でくっついてきてんだろ」
とか
俺とBはあまり真剣に取り合わなかった。
(ちなみにAは女を連れ込んではいないと言っていた)
自分以外の毛が落ちてたって
普通そんな気にすることでもないからだ。
Aも「まあそれ以外なんもないし、やっぱたまたまかもな」
と思い直したようで
その日はそれでAの部屋の話は終わった。
それからしばらくAは普段通りだったが、
二週間くらいが過ぎてから
妙に疲れているというか、
やつれてきてるように見えるようになった。
ちゃんと大学には来ているから
病気って事もないだろうし、
何か悩みでもあって眠れないとか
そういう事かもしれないってんで
BとCと一緒にAを飲みに誘って話を聞いてみる事にした。
飲みながらAに何かあったのかと聞くと、Aが
「言っても信じてもらえるかどうかわからないけど・・・
前にお前(俺の事)とBに髪の毛が落ちてるって話したじゃん?
んで最初は外でくっついてるとかそんなだろうって思ってたんだけど
どうにもおかしいんだよ、
外でくっついてるなら長さとかってまちまちだろ?
でも落ちてる毛ってどうも同じような長さのものばっかなんだよ。
しかもくっついてるとかなら床に落ちてるのが普通なのに
コップの中とかトイレとか風呂場とか、
とにかくどこにでも落ちてるんだぜ?
それに段々毛が落ちてる頻度っていうか量が増えてきてるんだよ。
それでもうなんか気になって気になって
家にいても怖くて落ち着かないんだ」
って話だした。
俺とBは半信半疑というか、
そんな変な事をすぐ信じる事もできなくて
「きっと偶然が重なって
疑心暗鬼になってるんじゃないのか」
とか言ってたんだが
Aは
「いや、そんなんじゃないんだよ。
マジでおかしいんだって」
って真顔で言い張る。
そしたらCが
「それならこれからAの家に行って見てみようぜ」
って好奇心丸出しな感じで言い出してきた。
Aも「そうだな、見てもらった方が早いわ」
って言うから4人で飲み屋を出てAの家に行った。
Aの家についた俺達は絶句した。
Aの言った通り、流し台、風呂場、トイレ、
部屋の中のそこらじゅうに毛が落ちている。
Aも
「・・・家を出る前はなかったんだぜ」
って言うからCがまた興味を持ったらしく
「ちょっとこの毛を集めて長さとか色とか見てみようぜ」
って言い出した。
俺もこの時になって怖さ半分、興味半分で
「そうだな、同じ毛かどうかくらいわかるかも」
ってBも促して4人で毛を集めることにした。
10分くらい経って
ようやく目ぼしい所に落ちている毛を集める事ができた。
集めた毛は白い紙の上に置いて、
長さや色を適当にチェックしていった。
あからさまに違う長さや、
ちぢれた毛(あの毛だ)を取り除いていって
残った毛をまとめる頃には、
何か部屋の空気が重いというか
うすら寒いものになっていた気がした。
重苦しい雰囲気の中Bが
「・・・同じだよな?」
と全員の顔を見ながらつぶやいた。
確かに長さ、色、手触り等、
素人判断ではあるが同じ人間の毛としか思えなかったので
俺もAもCも同意せざるを得なかった。
Cが
「うわ・・・やばいんじゃねーこれ」
とか言い出したんでAが弱気になってしまい。
「どうしよう、どうしたらいい?」
とかオロオロしだした。
俺は幽霊も見た事がないし、
今までそういう体験も無かったので
幽霊が原因だとか、そういう風に結論づけずに、
あくまで物理的な原因が
必ずどこかにあるんじゃないかと思い、Aに
「そうそう幽霊とかって出ないだろうし
こうして毛って言う物質がここにあるんだから、
絶対原因があるって」
と説得し、Aをなだめることに終始した。
もう夜も遅いし、
後日ちゃんと調べてみようという事になり
俺達は帰る事にした。
部屋のドアを開けて玄関に向かう途中にBが
「おい・・・ちょっ・・・これ・・・」
と、すごい顔で
風呂場の中を指さしているので
中を覗いて見ると。
一握りくらいの毛の束が風呂場に落ちていた。
それを見た瞬間背筋に走った悪寒は
今でも忘れられない。
4人全員が転がるように
外に出て近くのファミレスに入った。
しばらくして落ち着いてきたので
さっき見た毛について話が始まった。
確かに4人で部屋の中の毛を拾ったはず、
仮に取りこぼしがあったとしても
あんな目に付く毛の束を見逃すはずがない。
と言うことは俺たちが拾って帰ろうと
部屋を出るまでの間に落ちたという事、
あの部屋には4人しかいなかったし、
外から人が入ってもすぐわかる。
Aは確定的な出来事を目にしてすっかりびびってるし
BもCも俺も恐怖と興奮で頭がいっぱいだった。
0
4人で髪の毛を集めたり長さを測ったりして
ひっかき回したせいなのか、
次の日事態は急変する事になる。
朝になるまでファミレスで過ごし、
Aはまだあの家に帰りたくないと言うので
Bの家に行き、Cと俺は一旦家に帰り、
土曜日で休みなので
ひとまず寝てからまた集まろうという事になった。
夕方に目が覚めてしばらくすると
Bからメールが来て
「19時にさっきのファミレスで集まろう」
という流れになった。
ファミレスで集まった俺達4人はどうするか話し合い、
とりあえずAの家の様子を見に行く事にした。
Aの家は前日飛び出したまま、
外から見ても電気が点けっぱなしなのがわかった。
Aが鍵を開け、ドアを開ける。
ドアが開くまでの瞬間は
何か身体が浮いているような感じで
生きた心地がしなかった。
ドアを開けると
まず玄関に数本ではあるが毛が落ちていた。
もう誰も何も言わない。
風呂場を覗く、
昨日の毛の束があるが
他は変わったところはなかったと思う。
トイレ、台所、廊下には毛があった。
昨日あれから誰も入っていないはず、
しかし毛は落ちている。
俺はもう内心
「夢とかドッキリとかじゃないか、
むしろそっちの方がいい」
とか、恐怖と興奮で
現実にいるのか夢にいるのか曖昧な感じだった。
とりあえず部屋の中以外はチェックしたので
いよいよ部屋だと言う時にAが
「ヒュー」
と空気が漏れたような声(悲鳴だったのかもしれない)を出した。
俺がAに
「どうした?」
と聞くとAは引きつった顔で
部屋を仕切るガラスつきのドア越しに
部屋の中を指差している。
BとCと俺は視線を部屋の中に移した。
テーブルの上には昨日集めた毛の束がある。
別に何かいるわけでも何でもない。
俺は
「別に何もいないぞ?」
とAに言うとCが
「窓・・・」
とかすれた声で言った。
Aの部屋の窓は上半分が普通のガラス、
下半分が曇りガラスになっている。
上半分には何もない、
夜なのですぐそこの物干し竿だけしか見えない。
だが下半分、曇りガラスの向こう側にいた。
座り込んでいる髪の長い女がいる。
上が白い長袖のようなものなので
曇りガラス越しでも毛の長さがわかる。
もう直感的に
「この毛はこの女のだ」
と思った。
今思えば生身の女だったのかもしれない
(それはそれで怖いが)がはっきりと幽霊を見てしまった。
あの時、全身の血が足の方に落ちていく感じがした。
4人全員が悲鳴をあげるでもなく、
震える足を引きずって静かに静かに部屋を出た。
その後Aは引っ越すまで俺達の家を泊まり歩いた。
俺達もあんなモノを見てしまったので
Aを泊める事は暗黙の了解になっていた。
引っ越しの荷物をまとめるために
数回あの部屋に行く機会があったので
オカルト板で見た
『コップの中に日本酒を入れて置いておく』
『盛り塩を部屋の4隅に置く』
等をだめもとでやってみたのだが、
次に部屋に訪れた時、日本酒はかなり白く濁っており、
盛り塩はカチカチになっていた
(これは湿気のせいかもしれないが)
Aは引っ越した後、
何事もなく今では普通に生活している。
しかし部屋に落ちている毛は今でも気になるらしい。
結局あの部屋のとなりが神社だった事との関連や
あの女が何だったのかは分からないままです、
まあ分からない方がいいのかも・・・