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赤い靴

2019/02/17

小学4年の頃の話。
当時、俺は仲良しグループの中で楽しく遊んでいた。
仲良しグループとは、
俺、俺の親友のKと、T、R(どちらも女)の4人の事。
この4人は小2~3と連続で同じクラスになり、
席も何回か近くなったりして自然と仲良くなった。
小4でK、Tとはクラスが離れてしまったが、
それでも放課後に皆で廊下で待ち合わせしてよく遊んでいた。
ある夏の暑い日、
いつものように放課後廊下に集まって、
今日は何して遊ぶかを話し合った。
少しして、Kが窓の向こうを指さして言った。
『あの高いマンション行ってみない?
まだ行った事無いよね?』
そのマンションは15階建て、
ここらの町の中でも一番高さのあるマンションだ。
当時のここらのマンションは住民以外でも自由に出入りでき、
よくこのグループで近くの色んなマンションに行っていた。
だがあの高いマンションは少し遠く、
友達も一人も住んでいなかったので、
何か近寄り難い感じだった。
するとRが言った。
『あそこはダメだよ…』
意味深に言ったものだからKは
『何で?』
と勢いよく返した。
『よくわからないけど…
親からあそこは行っちゃダメって言われた』
そうRは言った。
俺は『何が』ダメなのか気になり、
『何だよそれ、行ってみようよ!気になるじゃん』
と言って、全体を行く雰囲気に促した。
するとRは
『んじゃうちイイや…ごめんね』
と言って先に帰った。
TはRが帰った事を少々気にしていて
『行ってみたい』的な事も言っていたが、
気を遣い結局Kと2人で行く事にした。
そのマンションまでは3kmぐらいあっただろうか、
少し遠く、着いた頃には少々足がくたびれていた。
この日は雨上がりの晴天で、
アスファルトと雨水が混じった変なにおいが
辺りを包み込んでいた。
いつもマンションを探検する時は、
エレベーターを使わず階段で一番上まで上がり、
下にも階段で降りていたが、
この日は疲れていたので、上へはエレベーターで行き、
上から階段を降りながら探検しようという事になった。
しかし、Kが疲れたから休もうと言い出したので、
探検の前にエレベーターホールにあるベンチで一休みする事にした。
10分ぐらい学校の話など色々していたら、
2つあるうち片方のエレベーターが1階へ降りてきた。
目の前のエレベーターが開いたが、
誰も出て来なかった。
あれ?と思って俺が中を覗きに行ったら、
真っ赤な女物の靴が
エレベーターの中に揃えて置いてあった。
人は誰も乗ってない。
俺はKを呼び、その赤い靴を見せようとしたが、
2人で再度エレベーターを覗くとその赤い靴は消えていた。
『あれ・・・さっきはあったのに』
少し奇妙に思いながらも、
2人で15階までそのエレベーターで上った。
このエレベーターの停止階は1・3・5・8・11・14で、
停止階以外の階に行く時は、
最寄りの階から階段で行く形になっている。
俺は最初
『あれ、14階しかないのか?』
と言ったら、
Kがそう教えてくれて14のボタンを押し、
着くのを待った。
5階の停止階を過ぎる時だった。
通り過ぎる一瞬、
向こうにさっきの赤い靴が置いてあるのが見えた。
俺が
『あ!さっきの…』
と言った時には5階を完全に通り過ぎていた。
Kが
『何?』
と聞き、俺は
『さっき1階で見たはずの赤い靴が5階にあったんだ!』
と言ったが、Kは俺が何を言っているのか分からない様子で、
信じないというよりはどうでもいいという反応だった。
俺は何か気掛かりになって、
8のボタンを押した。
5階のエレベーターホールまで降りて
確かめようと思ったのだ。
俺はKに
『先に上行って待ってて』
と言い、8階で降りた。
8階のエレベーターホールには何も無く、
俺はそこから7、6…と階段で降りていった。
そして5階。
見渡してもあの赤い靴はなかった。
さっきのは何だったんだろう…と思いながら、
5階からエレベーターを呼んだ。
片方のエレベーターは『14』を表示していて、
『あぁ、Kはもう着いたんだな』
と思い、急いで向かおうとした。
そしてエレベーターが5階に着き、
ドアが開いた。
俺は一瞬
『うわ!』
と声をあげてしまった。
あの真っ赤な靴が揃えて置いてあったのだ。
全体が奇妙に赤く、テカテカと光っている。
人は乗ってない。
俺は何か、そのエレベーターで上に上がるのが怖くなった。
しかし上ではKが待っている。
俺は仕方なく階段で駆け足で
15階まで上る事にした。
何か俺は焦っていた。
早くKに会いたい、
という妙な孤独感に襲われていた。
そして15階に着いた。
…しかし、15階のどこを探してもKはいない。
もしかして俺が遅すぎるのに腹を立てて
先に下に降りたのか。
俺は寂しくなり、Kの名前を大声で叫んだ。
『K~!どこだ~!』
マンション中に俺の声がこだまする。
近くにいるなら聞こえるはずだ。
…しかし返事が無い。
もっと下にいるのか。
はたまた声が聞こえていながら無視しているのか。
俺の精神状態はだんだんおかしくなっていった。
不気味な光景をたて続けに見た恐怖感。
それをKに伝えられないで一人で彷徨う孤独感。
…俺は一刻も早くKに会いたい、
このマンションから抜け出したいと思い、
15階から1階までエレベーターで降り、
マンションの外でKを待つ事にした。
14階に降りてエレベーターを呼び、乗る。
今度は赤い靴は無く、何かホッとした。
そして1のボタンを押し、
早く着いてくれと思いながら目をつぶり待っていた。
俺は怖くて仕方なかった。
目をつぶりながら、かがみ、
エレベーターの向こうを見ようとしなかった。
そしてエレベーターが止まった。
ドアが開いたが俺は怖さで顔を上げようとしなかった。
すると大人の男の声がした。
『子供一人発見しました。小学生のようです』
『え…?』
顔を上げると警察官が2人、
俺を見下ろしていた。
1人は無線で会話していた。
そしてもう1人が俺に話しかけてきた。
『どうした?何でこんな所にいるんだ?』
俺は訳がわからなかったが、
安堵感からその警察官に思い切り抱きつき号泣した。
そして俺はその場で警察官に色々聞かれた。
そこで
『他にもKと一緒にいた』
と言ったら、その警察官の顔が一気に青ざめたようだった。
後で、Kは15階から飛び降りて即死したと聞いた。
警察官はその件で住民から通報を受け
このマンションに来たらしい。
何故飛び降りたかは不明。
防犯カメラには俺とKの姿しか無く、
俺は警察から色々尋問みたいなのをされたが、
結局この一件は事故として済まされた。
ただ、俺は確かに見た。
奇妙に揃えて置いてあった赤い靴を、3回も。

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