ドッペルゲンガー
2019/01/19
ある晩、友達A(♀)から電話が来た。
「ねえSさん(俺)、ドッペルゲンガーって知ってる?」
「あー、なんか聞いたことあるよ。そんなタイトルの映画あったね」
「もう一人の自分のことで、その人に会ったら数日のうちに死ぬんだって」
何?と思ったけれど、
Aは勝手に話を進めていった。
「あたしね、最近へんな夢見るんだ。
夜にね、知らない道を歩いている夢。
歩いてると誰か追っかけてくるんだ。
女の人だと思う。ヒールの音だったし…
で、すぐ後ろまで来たところで振り返るんだけれど、
何かスッゴイ怖いものが居た。
でも、何だか覚えてない。
凄い怖いんだけれど思い出せない。
そんな夢を三度も見たんだよ」
何かの暗示じゃないの?注意を怠るなとか…と返事をすると、
「そうかもしれないけれど」
と言ってAは話を続けた。
「この前、H子が泊まりに来たんだけれど、その日も夢見た。
それが三度目。
朝起きてH子に夢の話したら、H子が変な顔してる。
夜中にトイレに行ったら、
鍵がかかってて中からあたしが返事したって。
でも、ベッドに戻ったらあたし寝てるじゃん。
寝ぼけたと思ってもう一度トイレに行ったら
『まだ入ってるよー』って返事されたって…」
「もしかしたら、もう一人のあたしがどっかに居て、
そのせいで夢見てるとか思うんだけど…」
正直、どう返答すればいいか迷った。
「でも、何かに気をつけろってことだと思うよ」
という内容を話して、
後は取りとめもない会話で終わった。
それから一月近く経って、
Aからまた電話があった。
ずいぶん沈んだ声だ。
また夢を見たのか、と聞くと
「違う」
と言う。
「昨日ね、会社の飲み会だったの。
会社辞めるコがいて、久しぶりに2次会まで行った。
その帰りね、ちょっと酔っ払ってて、
うちの駅のひとつ前の○○駅で間違って降りちゃった。
あり得なかったけど、いっか、
酔いを覚ますために少し歩こうなんて思った…」
Aは涙声になっていた。
少しすると落ち着いたらしく、
続きを話し始めた。
「人通りもなくて、気がついたら、誰か後ろを付いてきてるの。
チョッと振り返ってみると、スーツ姿の男の人が居たのよ。
急に酔いが醒めちゃって、途端に怖くなって」
「とにかく、誰か居るところに行かなきゃって思ってたら、
200mくらい先、女の人が歩いてるのが見えたんだ。
あの女性の近くまで行けば大丈夫って、
早足で近づいたんだけれど」
「…近付いてわかった。
その女の人の服装、その日のあたしの服とおんなじ…髪型も。
履いてるのも同じヒールだった!
その場所あの夢でみた所なんだよ!!
頭がガンガンして、訳分かんなくなって…
そしたら女の人立ち止まっちゃった。
立ち止まって、こっちを振り返ろうとしてる…」
「振り向くな、こっち振り向くなって思って、
目をつぶったんだけど…
顔ちょっとだけ見えた…そしたら
『ギャーーーーーーッ!!』
って、女の人の悲鳴が聞こえて…
しばらくして気が付いたら
周りには誰も居なかったんだよね。
男の人も、その女の人も…」
俄かに信じられない内容だった。
けれど、一月前の電話のときの話…
「振り返った女の顔は、Aの顔だったの?」
と思わず聞いてみた。
でも、
「電話切るね」
と言われて、それっきり。
その後、随分のあいだ音沙汰がなかったけれど、
つい先日街中でAと出会うことができた。
なんとなく、
昔の雰囲気と変わったなぁと思いながら
世間話をした。
機会を伺って、
あの時のことを聞いてみた。
するとアッサリと
「女の人の顔?
ちょっとしか見えなかったけれど、
あたしの顔だったよ」
と答えてくれた。
明るいトーンでAは、
最後にこう付け加えてくれた。
「でね、ほら、ドッペルゲンガーの話したじゃん。
あの女の人、あたしを見たから死んだんだと思うのよね」