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奥の間

2018/12/17

幼い頃、祖母の家に行くと
奥の間というところで遊んでいた。
奥の間はとても広く、
家具が置かれていないので
客間としても使われていたのだが、
遊ぶには適した場所だった。
その日は年上のイトコも来ていて、
一緒に遊んでくれた。
祖母の手拭いを借りて目隠しをして、
目隠し鬼をすることになり、
ジャンケンして俺がはじめに鬼をすることになった。
何も見えない恐怖と緊張、
耳だけが敏感に音を拾う。
「鬼さんこちら、手の鳴る方へ」
イトコの声がする方に手を伸ばしながら歩き回る。
二人とも笑っていた。
そのうち、変な感覚に陥った。
笑い声が、イトコのものなのか、自分のものなのか、
知らない誰かなのか。感覚が混ざり合うというか、
とにかく変だった。
イトコのものらしき声が近くに、
と思うと遠くから聞こえる。
とにかく声の方へ、と思って足を動かすと、
突然冷たいものに触れた。
突然足がうまく動かなくなった。
走りたいのに走れない、夢の中に似ていた。
気づけば、誰かが手を掴んでいる。
「●(イトコ)ちゃん?」
呼びかけても
耳元でクスクス笑う声が聞こえるだけだ。
甲高い女の声だった。
「鬼さんこちら、手の鳴る方へ」
楽しそうに笑っている。
俺の身体はもう
自分の意思では動かなかった。
「○○(俺の名前)!」
突然イトコの声がして、
目隠しが外された。
「なに、かくれんぼに変えるん?」
イトコは笑っていた。
なんと、俺は押入れの中に入っていたのだ。
どっと汗が吹き出し、涙があふれ出た。
何が何だかわからなかった。
イトコは途中で母親に呼ばれ、
俺に向かって
「ちょっと待ってて」
と言ったのだが、
俺は部屋の中央をぐるぐる回っているだけで
返事をしなかったので、すぐ戻るからいいか、
と思って放置して出て行ったのだという。
もし、イトコが戻ってくるのが遅かったら、
俺はどうなっていたのだろうか。
俺が押入れに入っていたことを聞いた祖母は驚いて、
「まあ、あの渋い戸をよく開けられたねえ。
ばあちゃんより力持ちだぁ」
なんて笑っていた。
少なくとも子供の俺よりは力があった祖母でも
押入れの戸を開けるのは難儀だったのだ。
しかも俺は押入れの上段にいた。
あのときはまだ上段には一人では上れなかったのに。
俺に何が起こったのか、
どうなろうとしていたのか、わからない。
祖母の家の奥の間は、
ひんやりとして薄暗く、
今でも苦手だ。

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